経営とビジネスの現場で、日本人の「思考」と「行動」に変化を起こす!「マネジメント実務」に変化を起こす!

コラム

自己表現する(2)

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

 

第19回

自己表現する(2)

 

現在の「和」の解釈が生む「安堵感」V.S.「心の葛藤」

“和を以て貴しとなす”。当時の「和」の解釈(=先月号を参照)と大きく異なり、現在は、「角(カド)を立てず皆と仲良くする」「空気を読んで和を乱さないようにする」「自分の意見を飲みこんで(=殺して)集団の総意や流れに同調し従う」という解釈が一般的です。

その結果、日本企業では、自分を押しださず周囲に同調する行動をとることに「安心感」「安堵感」を抱き、そもそも人間として“不自然な”行動をとることが生きていく術であると信じて疑わない社員の数がそもそも多くなる傾向があります。

雇用不安が深刻化する最近では、日本の大学のキャリア教育でも、今まで以上に企業に好まれる学生創りに焦点が当たり、「周囲に同調することを恥じない」人材育成が基本スタンスになりがちです。

一方で、新卒で入社してからの“一時期”、ひとりの人間として「心の葛藤」を抱えてしまう若手社員が少なからず存在することは皮肉な事実といえます。入社した会社の組織の中では、自然に考えて不思議に感じること、理不尽だと感じること、そして、誰もが疑わない黙示的規範のようなことがたくさんあります。当然のことながら、感覚がまだ自然な多くの若手社員は、それらを受け入れることに違和感を抱きます。しかし、学生時代をとおして自分の見方や考えを率直に表現するための「自己表現力」を鍛えていないため、質問や議論をとおしてこの違和感をなかなか解消することができません。仮に、表現力の高い若手社員が違和感を解消する行動をとっても、周囲の古株社員の表現力が低いため会話が噛み合わないケースも多くあります。その結果、「このままで本当にいいのだろうか?」と最初の数年悩んでしまうことになるのです。

 

3つの人材タイプ

日本企業で働く若手社員は、このような「心の葛藤」の時期を経て徐々に3つのタイプの人材に分かれていきます。「2・6・2の原則」では、①が6割、②と③が2割というイメージです。

①   感覚が麻痺していく人材

「会社に雇用され続ける」ことが職業人生の大きな動機になる人材です。角を立てず周囲に同調することに心地よさを感じ、徐々に若い頃に感じた素直な「心の葛藤」を「若気の至り」「未熟さ」という言葉で消去していくことになります。

②   同調し同化しない人材

「(されど)自分らしさを失わずに生きる」ことが職業人生の大きな動機になる人材です。同調よりも自分の考えや意見を率直に表現することに重きを置くことになりますので、社内では「変わった奴」というレッテルを貼られやすくなります。あるいは、社内で“損”をしながら生きていくよりも社外に自己実現の場を求め会社を去る人材も一部含まれます。

③   器用に自分を押しだす人材

「会社の中で役職を昇りつめる」ことが職業人生の大きな動機になる人材です。ほとんどのサラリーマンが一度はこの動機を持つことになりますが、その多くは徐々に①のタイプに“静かに”転じていくのが実状です。このタイプの人材は、周囲の人から「行動が姑息だ」というような印象をもたれる“瞬間”もあります。しかし、「上昇志向」を動機に、押し出し、引き際、攻めどころ、守りどころなどの「状況判断力」が優れていることが、昇進という結果の事実につながっていくのです。

 

海外で活躍できる人材タイプは?

さて、このような3つのタイプの人材が海外拠点に派遣された場合、活躍できる人材はどのタイプでしょうか?答えは、①②③全てのタイプの中にいます。外国人の感覚に最も近く、対等に対話ができそうな人材は②のタイプですが、本社で「変人」扱いされ心が屈折して偏屈になっていないことが海外で活躍できる条件となるでしょう。①と③のタイプは「現在の「和」の解釈にもとづく思考と行動は海外ではうまく機能しないのだ」ということにハッと「気づく」ことが条件になります。③のタイプはそもそも「上昇志向」と「状況判断力」が優れているため、「気づく」確率が高まりますが、①のタイプは一般的に「気づき」に時間がかかるでしょう。しかし、①のタイプは人口が多いので、その変容に大きく期待したいものです。

 

日本での行動習慣の特徴

日本では「同調すること」は「和を乱さない行動」として認知され、多くの日本人ビジネスパーソンが無意識のうちにこのような行動を習慣として身につけています。会社で優秀とされている③のタイプの人材は機を見計らって器用に自分を押し出しますが、その頻度は低く、さらに、周囲への気遣いが強すぎるため、表現する内容の論理的明快さは必ずしも高いとはいえません。さらに、このタイプが自己表現するときの前提の特徴は「反対されることがほとんどない」ことです。いわゆる「根回し」による結論先にありきの状況を作った上で「賛成票をとりつけるための自己表現」となることが多いのです。従って、出たとこ勝負や乱打戦の議論が始まると途端に発言の少ない物静かな人に化してしまうのです。

 

海外で求められる行動習慣の特徴

一方で、海外拠点では現地人材と対等な対話をとおして仕事をすることが求められます。そのためには、現地に派遣される日本人ビジネスパーソンは日本で仕事をしていた時と異なり、自分の考えや意見を適切に表現しなければいけません。また、自己表現する頻度も高く、内容も論理的に明快にする必要があります。日本での行動原則が「同調」ですので、そもそも日本人ビジネスパーソンの自己表現力の質は決して高いとはいえません。この事実と実態を踏まえて、日本人ビジネスパーソンは海外に派遣されることが決まった段階、あるいは、それ以前から、「自己表現」の習慣を身につけるべく準備しておくことが大切です。

さらに、海外では、自己表現するときの前提が日本人同士の場合と異なり、「賛成されることもあれば反対されることもある」に変わります。いざという時、ここぞという時に反対されることに慣れていない日本人ビジネスパーソンにとって、この前提に立つことは大変大きなチャレンジになります。場合によっては恐怖感を抱くことにすらなります。

海外では、どれだけ適切に自己表現できたか?様々な質問に対してどれだけ適切に回答し説得できたか?多様な考えや意見を引き出し、そして、とりまとめ、どれだけ納得感の高い合意を形成できたか?というようなことがリーダーとしてリスペクトされるかどうかの決め手になるのです。

 

グローバル人材教育の根本的な足枷

そもそも、日本人は他国の人と比べて宗教、人種、民族、言語の点で客観的に「同質性」が高いです。そのため、多文化対応力がどうしても低くなってしまうのですが、現在の「和」の解釈は、日本人の「思考と行動」の点においても結果的に「同質性」を高めてしまうことになってしまいます。日本の企業社会でグローバル人材教育が本質的になかなか前進しない大きな原因は、現在の「和」の解釈にあるといえると思います。

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