経営とビジネスの現場で、日本人の「思考」と「行動」に変化を起こす!「マネジメント実務」に変化を起こす!

コラム

「感謝」の言葉、「褒める」言葉を相手に伝える

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第48回
「感謝」の言葉、「褒める」言葉を相手に伝える

◆「閾値」を上げてはいけない
 結婚式で新郎新婦へ贈るスピーチに、「夫婦円満の秘訣は、お互いが『閾値(いきち)』を上げないこと」という、大変意味の深い言葉があります。
 「閾値」という言葉はあまり聞き慣れない言葉ですが、「生体が反応を示す最小の刺激量」という意味です。具体的にイメージしやすいのは、自分の手の甲をつねったときの現象。初めてつねったときは、「痛い」と感じる「強さ」があります。しかし何度も同じ場所をつねっていると、「痛いと感じる強さ」に変化が起き、最初につねった強さでは痛みを感じなくなってしまいます。痛みを感じるには、さらに強くつねらないといけなくなるのです。この現象を「閾値が上がる」といいます。
 夫婦の関係では、誰でも新婚のとき、相手に「ありがたい」と感じる「レベル」があったはずです。しかし通常、時間の経過とともに、このレベルが「当たり前」と感じるレベルへと変化してしまうのです。「閾値」、つまり「当たり前と感じるレベル」を上げてしまうと、互いに「ありがたい」と感じることが徐々に減り、感謝の言葉も会話も少なくなってしまいます。したがって、「『閾値』を上げないよう、互いに意識し続けたほうがよい」とアドバイスするのです。

◆心で感じたことを言葉で率直に表現する
国内外を問わず日本企業の職場では、日本人上司と部下との関係において「閾値」が上がる現象がよく起きます。
部下が頑張って良い仕事をしたとき、多くの上司は「よくやったね」と褒めます。しかし、次も部下が同じような良い仕事をしたとき、上司は「前回できたことは今回できて当然」と考え、褒める言葉を掛けなくなります。この行動は日本の組織で深く根づいていますが、現場の「改善」活動によって商品やサービスの品質を高めてきた、日本企業ならではの行動文化といえます。
しかし外国人とうまく仕事をするには、日本人は“世界仕様の行動”を身につける必要があります。「助かった」「ありがたい」と感じたら「ありがとう」「Thank you」。「いいな」「よくやったな」と感じる仕事であれば「いい仕事だね」「Good Job」と表現することが必要です。こうした言葉は、相手の「次も頑張ろう」という気持ちに繋がるものなのです。

◆「わずかな改善」も認知する
商品やサービスと違って、人の行動や仕事のアウトプットでは、わずかな改善や変化がなかなか認知されにくいものです。そのため部下は通常、「大きな改善や変化しか、認知の対象にならない」と感じて徐々に息切れしていくと同時に、上司も認知の言葉や表現を失っていくことになるのです。
仮に前回と同じレベルの仕事だったとしても、良いレベルを続けることは大変なことで、努力も必要です。したがって、「今回も○○の件は良い仕事だったね! 良い仕事を続けることができるのは、素晴らしいことだよ」と言葉で認知することは大切です。さらに、「次回、もう少しうまくできることがあるとしたら、何だと思う?」と、相手のポジティブな考えを引き出す質問をすることも効果的です。

◆「感謝の対象」「褒める対象」を相手に言葉で表現する
夫婦関係の中で「感謝の言葉」を長年使っていない旦那さんが、恥ずかしさを捨てて一念発起し、奥さんに「ありがとう!」と言うと、驚きながらも嬉しそうに奥さんが、「何が?」と反応する――。笑い話のようですが、ある意味、女性の感覚は“世界仕様”といえます。
多文化社会では、互いが理解し合えるように表現することが行動原則になります。「○○を感謝している」「○○をとても良いと感じた」といった具合に、感謝すること、褒めることの「対象」を相手に具体的に表現することは、互いの理解を深めるのにとても有効です。

「言わずもがな」が通じる日本社会に生きる日本人にとって、こうした行動はなかなか慣れないことです。しかし言葉だけでなく、表情や身体も使って表現することは、外国人と信頼関係を作り、感度を合わせて仕事をするのにとても大切な行動なのです。

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