経営とビジネスの現場で、日本人の「思考」と「行動」に変化を起こす!「マネジメント実務」に変化を起こす!

コラム

「外国人との時間」を大切にするために必要な感度と行動

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第45回
「外国人との時間」を大切にするために必要な感度と行動

◆日本と海外では「時間を守る行動習慣」がそもそも違う
日本の社会では、「時間を守らない人は信用が低い」という固定観念があります。そのため、日本人の間ではプライベートでも仕事でも、他人と約束した「時間(=物事を開始する時間)を守る」行動習慣が定着しています。約束に遅れそうになると、信用を失いたくない意識が働き、必ず相手に連絡を入れてお詫びをします。
海外ではどうでしょうか? そもそも、日本と同じような時間にかかわる固定観念はないといっても過言ではありません。日本と比べて交通機関が時間に正確でないことはもとより、家庭で親が子供に対して「始まり」の時間を守ることの大切さを優先して教育しているわけでもありません。そのため、外国人は「始まり」の時間に遅れても、自分の信用を失うリスク意識が低いだけでなく、相手の時間をムダにしてしまうというような罪悪感すら薄いのが実情です。

◆「始まりの時間」よりも「議論の質」「成果」にこだわる行動が必要
日本企業の海外拠点で、日本人駐在員が主催する会議の開始時間になっても出席予定の現地社員がその場にいないと、まず、日本人は条件反射的に「けしからん!」と感じます。そして、その現地社員に対して「時間にルーズな人」「自分勝手な人」「信用に欠ける人」といった印象を持ちます。
次に、開始時間を過ぎると日本人の表情が徐々に強張り、眉間にしわが寄り始め、イライラが始まります。その理由は、日本人にとって当たり前でないことが目の前で起きつつあるからです。その後、ほとんどの場合、遅れてきた現地社員を強面で睨み、きつい言葉で叱り、他の参加者の時間をムダにしたことについての謝罪を求めます。その結果、その場の雰囲気はものすごく凍りついてしまいます。このような「空気」になると、会議室の多くの人たちの脳の働きが停止し、その後しばらくの間、空白の時間が流れてしまうことになり、会議の「質」に影響が出てしまうのです。
多くの外国人は、日本人は「形」にこだわり過ぎて「内容」を軽視する傾向があると感じています。「会議の始まりの時間には厳しいけれど、なぜ議論の質や会議の成果にはあまりこだわらないのだろう?」という疑問があるのです。日本人は「終わりの時間」にはあまりこだわらないが、「始まりの時間を守ること」には大変厳格だというイメージが、外国人の間では定着しています。そして、外国人には、日本人は「時間を大切にする」感覚が薄いと映っているのです。

◆「共有する時間を有意義にする」感度と行動が必要
日本人にとって、「時間を大切にする」行動は、「約束した始まりの時間をお互いに守る」ことを優先します。しかし、外国人にとっては、「共有する時間をお互いに有意義なものにする」ことを優先するのです。つまり、一緒に過ごした時間の中で、「お互いの考えがよく理解できた」「率直な意見を交換することができた」「学びが多かった」「次にやるべきことがはっきりしてよかった」といったことをお互いに感じることができることを意味しているのです。
会議の中で対等で公平な議論が起きないのであれば、外国人にとって会議に参加する意味は薄れます。最初から日本人駐在員の間で結論が決まっていて、会議の場でそれに賛同を求められるか、儀式的に意見を求められるだけ、というやり方は、有意義な時間を過ごしたという感じ方とはほど遠いものです。意見を言っても毎回、反対・否定されるだけでは、意見を述べる気持ちが萎えてしまいます。また、何が決まったのかが不明なまま会議を終えてしまうと、それこそ消化不良となりモヤモヤ感が残ってしまいます。さらに、会議の場では何も決まっていないのに、再開の案内もなく、その後、気がつくと、日本人駐在員の間だけで結論が出されていたということであれば最悪です。
実際のところ、このようなことは海外拠点だけでなく、本社を中心としたクロスカントリーの電話会議、テレビ会議、相互の出張時の会議の場で、案外よく起きているのが現実なのです。

外国人とのコミュニケーション3原則

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第44回
外国人とのコミュニケーション3原則

日本の大企業では、諸外国の企業と異なり、終身雇用的慣行が一般的です。この慣行の下では、同じグループ組織の中で「定年まで共に働く」ことが前提ですので、人間関係が悪くならないよう互いに気を遣うあまり、率直に表現する習慣が薄れてしまいます。
さらに、日本の組織は「空気」に支配される傾向があり、通常、会議の場で日本人は自分の意見を率直に表現せず、むしろ、「空気」を読んでそれを「適切に」呑み込む行動を取りがちです。その結果、多くの日本人は自己表現する機会が少なくなり、日本語の語彙や表現のバリエーションを無意識のうちに失っていく傾向があります。
今後、世界の舞台で外国人と「誤解」や「軋轢」少なく仕事をするための最重要課題は何か? その答えは、「表現する力」を磨くことでしょう。ずば抜けた英語力や外国語の能力がある人以外の脳は原則、日本語脳です。そのため、日本語で表現できること以上のことを外国語で表現することは至難の業なのです。つまり、日本語脳で「表現する力」を磨くことが大切なのです。そのためのポイントを3つ紹介します。

1.メッセージに内容や情報を多く盛り込む
同質性の高い日本人社会では「お互いに理解し合えて当然」という前提があり、日本企業で働く社員の間にはたくさんの暗黙知もあるため、共通のコンテクスト(=文脈)が多くなります。そのため、互いにとって既知の情報と推察される内容は省略され、結果的にメッセージは短くなり、使う言葉の抽象度も上がります。このような言葉を外国人が聞くと、言葉自体は理解できても、その言葉が「意味する内容」や「言外に含まれること」までは必ずしも正しく理解できるとは限りません。
 他方、海外では「お互いが理解し合えなくて当然」という前提に変わります。従って、外国人に正しく理解してもらうためには、内容や情報、つまり、発信量を増やす必要があるのです。そのためには、意味が限定された具体的な日本語が必要になりますし、当然のことながら、同じことを日本人に話すときと比べて、話は長くなります。

2.メッセージの論理と構成を明確にする
 日本人同士のコミュニケーションは、互いに理解し合えるという前提のもと、一般的に緊張感が低くなります。その結果、日本人が会社組織で日常的に使っている日本語は、言葉や論理の点でかなり「乱れて」しまいます。具体的には、通訳の外国人が学ぶ日本語とは似て非なる言語であり、メッセージも通訳・翻訳しにくいものになっていることが多いのです。さらに、相手に気を遣い過ぎると、言葉や論理が“緩み”、もっと分かりにくいメッセージになってしまいます。
相手が外国人に変わった場合、発信する自分のメッセージが正確に伝わらないことを予測し、そうならないために緊張感をもって「準備」することが重要になります。具体的には、伝えるメッセージの論理とメッセージ全体の構成をノートやiPadなどの媒体に「書く」ことです。その「準備」の後に発信するのです。書いたメモを「見る」、そして「整理する」という行動の繰り返しが、メッセージの論理と構成を明確にするうえで大変効果的なので、習慣化する価値は十分あります。

3.行動の主体を明確にする
日本人が書く日本語のメールや会話の中で「私は」という主語は通常なかなか登場しません。そのため、相手が外国人のとき、誤解が起きやすくなるのです。「誰が」「誰に」「誰を」など、行動の主体や行動が及ぶ主体を明確に表現することが大切です。さらに、「あなたはどう思いますか?」と外国人に聞かれたら、「うちの会社としては――」ではなく、「私は」で始まる回答をすることが鉄則でもあるのです。

「協力会社」とは誰が誰に協力するのか?

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第43回
「協力会社」とは誰が誰に協力するのか?

 海外で働く日本人駐在員から「日本では、協力会社はほぼ何でも言うことを聞いてくれたが、海外では180度違います。こちらの要求になかなか答えてくれません・・・!」という愚痴や相談をよく受けます。

 このようなとき、「協力会社の“協力”とは誰が誰に協力することですか?」と私は必ず質問します。答えのほぼ100%は、「相手が私たち(=発注側)に協力することですよ!当然です!」です。この回答の背景には、私たちは協力会社の客であり、協力会社は客に商売させてもらっているのだから、客の要望に応え、何から何まで協力すべきである、つまり、客は神様である、というような「一方通行の協力」を求める日本的な発想や考え方があります。

 この「一方通行の協力」に一程度の「妥当性」を与えるのであれば、上司が部下に「業務命令」をするのと同じように、指示命令系統を作るのが適切でしょう。具体的には「一方通行の協力」を求める協力会社を買収して内部組織に取り込みコントロールすることになります。しかし多くの場合、人・物・金を必要以上に抱えることは経済合理性の点で得策でないため、外部組織としての協力会社を活用することが一般的です。
 
 興味深いのは、この日本的な発想や考え方は、立場が逆転しても「生きている」ことです。たとえば、欧米に駐在している部品メーカーや材料メーカーの日本人駐在員からは「欧米企業の協力会社として、要求されたことに応えることができるように誠心誠意尽くして頑張ってるんですけどね・・・最近、ちょっと相手からの無理難題が多すぎて困ってるんです・・・。どうすればいいですか?」というような相談を受けることになります。

 発注側の欧米企業は、このような日本的考え方は自社にとって損はなく都合がよいと考え、相手がどんな要求に対しても頑張って努力し対応してくれるのなら、相手がNOというまで際限なく要求する行動をとります。特に、日本人はなかなかNOと言うことができず、ある時点を境に「欧米企業は無理難題を押し付けてくる!強引だ!相手の立場や状況を理解しようとしない・・・」といった不満を抱くようになってしまいます。

 ここで、言葉を「協力会社」から「パートナー会社」に置き変えてみましょう。「パートナー」という言葉には「お互いに協力する」という意味が織り込まれていて、自然と「双方向の協力」という行動をイメージすることができます。そうすると、発注側の要求が過度な場合、受注側がそれに対応するとき、「品質の要求水準に応えるための最善を尽くすにあたり、○○までは弊社で努力するが、△△以上については、それを可能にするために□□の支援をお願いしたい」というように、対等な立場からの表現に変化します。そして、交渉の結果、お互いに納得できる、あるいは、お互いに譲歩する要素を伴う結論を導き出すことも可能になるのです。

 さらに、海外でパートナー会社(=協力会社)を活用する際に正しく理解して抑えておかなければいけないポイントがあります。

国によって状況は異なりますが、特に、中国をはじめとする経済成長が著しく、外国からの直接投資が多い新興国では、パートナー会社は「売り手市場」です。多くの日本人駐在員はこの点を見落としがちで、実際のところ、この点は盲点になっています。「売り手市場」ということは、市場に顧客がたくさん存在するということです。その状況下で、発注側の日系企業が一線を越えた過度な要求や高圧的な行動を続けると、日本の「協力会社」と異なり、相手は誠心誠意を尽くしいつまでも耐え忍ぶようなことはせず、他の顧客との商売を拡大し、タイミングをみて日系企業から徐々に去ってしまうということも十分ありえるのです。

特に新興国での多くのパートナー企業の社長は自分のお金をもとに経営しているオーナー社長ですので経済合理性を追求してもおかしくありません。また、日本人と違って、相手と商売をするにあたって、短期的なディメリットに目をつぶって我慢し、長期的にあるかもしれないメリットを期待するような考え方はあまり持ち得ていないこともよく理解しておくポイントといえるでしょう。

“疑う”行動が必要!?

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第42回
“疑う”行動が必要!?

 不正取引は中国をはじめとする新興国だけでなく、残念ながら、日本や先進諸国でも起きていることは周知の事実です。

海外では、宗教観による多少の違いはありますが、原則、人は性悪説をベースとした「牽制」に基づき行動しますので、不正は「牽制」の“抜け穴”で起きます。一方、日本では、人は性善説をベースとした「信用」に基づき行動しますので、不正は「信用」を裏切る形で起きます。ただ、行動原理が性善説のため、「牽制」機能が弱く、通常、“抜け穴”は大きく数も多く、“その気”になればできる確率が高いのが実情です。

日本人駐在員の多くは、海外の行動原理を頭で理解できても、日本の行動原理が身に染みているので、通常、“本能的”に「性善説」で行動する傾向が強くなります。その結果、会社のルールという「牽制」が弱くなり、不正が起きやすい状態を自ら作ってしまうことになるのです。

過去10数年の間に、韓国、台湾、中国企業が大きく躍進し、市場で競争力を発揮するようになりました。その結果、日本企業は「価格競争」に巻き込まれることが増え、コスト競争力を高めるため、工場の海外移転を加速させてきました。このような状況の下、海外の生産工場で不正取引が起きることは日系企業にとって「致命傷」なのです。

工場での不正取引のメカニズムは、わかりやすく言うと、そもそも100円で仕入れることができる物品を20円高い120円で仕入れ、仕入れ側で不正取引に関わる社員が、多く支払った20円のうちの例えば10円を“陰で”リベートとして受け取る、ことです。つまり、仕入れ側企業は20%のコストUPになり、コスト競争力UPの目的達成はおろか、価格競争で負けてしまうのです。

具体的な実態を紹介します。

購買課長の現地人材が継続的にリベート(=無税の現金収入)の入る「ルート」を複数社と作り、満足できるリベート収入の目途が立つと、自ら異動を申し出て、周囲から疑われにくい役職に移ることはよくあることです。会社が癒着を防ぐ目的で定期的に購買担当者を異動させる場合は、在任期間に「ルート」作りに励むことになります。笑。安全な環境に身を置き、しばらくすると、新車や新居を購入する、という疑わしい事例は少なからずあるのです。

一般的な日本人は耳を疑いたくなりますが、不正取引に日本人駐在員が単独、あるいは、現地人材と一緒に関与していることすらあります。駐在期間中に権限を行使し取引先として選定した協力工場からリベートを受け取るといったことです。帰任後、このビジネスに関わる要職に就いた場合、本社から再び権限を行使しこの協力工場を指名することもあります。さらに、定年退職後、この協力会社に顧問として天下る、といいう事例もあるのです。

 経営やビジネスにとって「致命傷」となりえるこのような事例をなくす努力は市場で勝ち組になる必須条件といえます。その努力とは、「疑う」行動です。疑う対象は基本的に2つです。

ひとつは、「人」です。部品、材料、物品の購入などの役割を担っている社員が、取引先業者の選定プロセス“終盤”で、自分にメリットのある業者を念頭に、「ここもありますよ」「ここは値引きがもっと可能だと思いますよ」という発言をすることがあります。このようなとき、盲目的に信用し交渉成果を期待するのではなく、「あれっ?」と「疑い」、第3者的な他の社員を同行させて最終候補業者を訪問し、品質、納期遵守のための体制、などの点でチェックすることが必要です。そうでないと、劣悪な品質をつかまされ、品質改善の指導に明け暮れる危険が伴うからです。

もうひとつは、「自社のオペレーション」です。具体的には、もの、お金、帳票類の流れや決済プロセスなどです。性善説をベースとしたオペレーションの数多くの“抜け穴”を塞ぐ努力をしなければ、不正取引は減らないのです。そこで、自社のオペレーションを「総点検」する必要があります。一般的な日本人が気づかない重要なポイントは、「不正をやる立場」で自社のオペレーションを「総点検」することです。実行する「不正内容」を明確にし、それを「仮想実行」するチームを作って「総点検」させる、というイメージです。そうすると、“抜け穴”を網羅的に発見できる可能性が高まります。不正取引はあるが証拠が残らない最大の原因は、“抜け穴”があることです。「不正をやらない(会社の)立場」で「総点検」しても、性善説的な考えを払拭できず、結果的に、点検プロセスで見落とす“抜け穴”が増えてしまうのです。

外国人リーダーは気配りが足りない!?

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第41回
外国人リーダーは気配りが足りない!?

 5年ほど前から20代半ば~30代前半の若手社員が1~2年の海外実務研修員、あるいは、駐在員として赴任するケースが増えてきています。若手社員が入社後早い段階で多文化社会を経験し、グローバル人材としての素養を磨き始めることは、今後、日本企業が世界でサバイバルしていくための好条件といえます。

 特に英語圏に赴任する場合、このような若手社員は現地採用の外国人の上司やチームリーダーの下で働くことが多くなり、日本で働いているときと比べて、違和感を多く抱くことになります。彼らからよくある相談内容は、外国人リーダーの行動についてです。

 「リーダーが突然、私が知らないうちに、すでに決めたことを変更するんです・・・」
 「外国人リーダーって独裁的なのでしょうか?トップダウンとはこういうことなのでしょうか?」

 組織の中で働いている場合、よほどの独裁者でない限り、一人でものごとを決める人は少ないです。リーダーでも何か重要なことを決めるときは一人の人間として不安を抱えるのが自然です。リーダーとして自分の考えや結論をキーメンバーに「声をかけ」、相談、議論した上で最終判断することが普通です。

冒頭の相談内容のポイントは、日本人メンバーに声がかからないことがよくあることです。では、なぜ、日本人メンバーに声がかかりにくいのでしょうか?答えは2つあります。

ひとつは、日本人メンバーが外国人リーダーとの間にレポート関係があるにも関わらず、日本本社を向いて仕事をし「スパイ化」してしまうことがよくあるからです。
具体的には、外国人リーダーが日本本社から反対されそうな案について敢えて日本人メンバーに相談すると、あたかもそれがリーダーの強い考えかのように本社に伝わり、本社から先に牽制を受けてしまうことがよくあります。このようなケースを数回経験すると、当然、リーダーは日本人メンバーへの不信感を強め、声をかけることを控えるようになっていきます。背景には、日本本社側が日本人メンバーにこのような行動を期待している場合もあるのですが、これは若手社員の貴重な時間を無駄にしてしまい、グローバル人材育成の点では明らかに逆効果です。

もうひとつは、日本人メンバーが、外国人リーダーにとって「頼りにしたい存在」でない、つまり、声をかけて相談や議論する価値が低い存在になってしまっていることが多いからです。 
このような日本人メンバーは、日常的な議論の場で自分の意見をほとんど明快に表現したり主張していないのです。ニコニコしながら黙っているか、言葉足らずであいまいな表現に終始しているか、あるいは、YESかNOを求められ、とりあえずYESと言ったものの、その後、陰で否定的な行動をとっていることが多いです。その結果、チームへの貢献度が低いとみなされてしまうのです。リーダーは本来、チームへの貢献度が高いメンバーを求めているのです。
 
 実際のところ、外国人リーダーにとって「頼りになる存在」のメンバーは、より明快な論理やより強い根拠でリーダーの結論をサポートし賛成してくれそうな人や、説得性の高い論理で敢えて反対、牽制し、異なる視点を与えてくれそうな人なのです。

若くして海外赴任の機会が与えられた日本人は、日本本社で日本人と仕事をしているときと違って、スイッチを切り替え、自分の意見を明確に論理的に表現する習慣を身につけた方が大きく成長できます。そのためには、常日頃、自分の考えや意見を約200字から400字程度でまとめて言い切る練習をすることが大切です。具体的な手段は、ノートやパソコンを使って「書く」、あるいは、ICレコーダーに録音するなどの方法がお勧めで、その内容を都度、英語に翻訳する練習をすると英語の上達にも大変役に立つはずです。

一般的に、日本人リーダーは反対意見を好みませんが、同調し賛同してくれそうな信頼できるメンバーに「声をかけて」相談し判断を固め、そのあと、全メンバーに声をかけ了解をとっているだけです。つまり、日本人リーダーの下では、メンバーとして黙って状況を静観し、自分から発信し行動しなくても、日本人リーダーが「気を配って」メンバー全員に声がけの行動をとってくれます。しかし、海外では、通常、自分から発信し行動しなければ、リーダーは行動してくれないのです。

日本人の若手社員を優秀な外国人リーダーの下に配置し、早い段階で、日本人と外国人の・行動原則の違いを気づかせることはグローバル人材育成上、大変重要だと思います。

現地人材は自分で考えようとしない!?

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第40回
現地人材は自分で考えようとしない!?

 「どうして現地人材は自分で考えようとしないのか?」という問題意識やストレスは、特に、日本人が“上から目線”になりがちな新興国において、日常的に頻繁に起きがちです。

 日本人駐在員からの具体的な声は、「○○について少し考えて解決策をまとめて出してくれますか?」と現地人材に依頼しても、アウトプットが全く出てきません・・・。提出を要求しても、「部長(=日本人)の考えを聞かせてください」というように指示や答えを求めてきます・・・。ひどいケースは、「部長(=日本人)が先に言うべきです。私はそれに従うだけですから!」と感情的にキレるんです・・・。

 現地人材が全員いつもこのような行動をとっているわけではありません。日本人特有の行動特性に何度か遭遇すると、このような行動が起きやすくなると考えるのが適切だと思います。 

 冒頭にある問題意識やストレスを抱える赴任後間もない日本人と私の間で、次のような対話がよくあります。
篠崎: 「赴任後、アウトプットの提出や提案を現地人材に何回くらい求めましたか?」
駐在員: 「ずいぶんあります。最低でも10回以上は・・・」
篠崎: 「その時に、自分が期待していたアウトプットのイメージと現地人材が作成したものとの
間にはどの程度ズレがありましたか?」
駐在員: 「そりゃもう、全然違いますよ・・・ズレまくりです!」
篠崎: 「なるほど。それに気づいた時に、相手の現地人材にどのように対応しましたか?」
駐在員: 「そりゃ、期待していること、やってもらわないといけないことをとにかく伝えましたよ!」

現地人材の具体的な声は、「頑張って考えをまとめて提出しても「否定」されるだけで、結局は日本人の考えや日本での仕事のやり方に「従う」だけですから・・・」といった具合です。実は、この声こそが、日本人が「不適切」と感じる行動を現地人材がとる本質的な理由なのです。
 
 日本人は通常、日本の組織で日常的に自分を強く押し出すことはあまりしません。むしろ、その場の“空気”を読んで自分の考えや主張を適切に呑み込み、上司や周囲の人たちのそれに適合させる習慣を身につけています。その結果、日本の組織では通常、お互いの考えや意見を否定(=に反対)する行動が大変少なくなってしまっています。このような組織文化の中で、仮に、上司に考えを否定された場合は、「自分が適合しなくては!」という心理が本能的に働き、逆に、部下の考えを否定した場合は、「相手が適合すべき!従うべき!」と考えてしまうのです。

 外国人は日常的な「自己表現」と「自己主張」が自分の存在価値だと認識します。自分の意見に対しては当然、肯定(=賛成)もあれば否定(=反対)もあると考え、そこを起点に議論を始めようと考えます。しかし、日本人の多くは、「適合」が行動の基本原則なので、相手の考えと異なる(=に反する)意見を表現することはもちろんのこと、自分の考えと異なる(=に反する)考えや意見を表現されることにも日常的に慣れていません。従って、現地人材が自分の期待するイメージとズレたことを言ってくると、条件反射的に「否定」する行動をとってしまうのです。さらに、自分にとって常識的でないため、イラッとした感情が合いまって感情的になり、自分の考えに「従える」行動を無意識のうちにとってしまいがちです。

諸外国の多くの現地人材は通常、このような“日本人的”な行動に大きな違和感を抱き、どうせ日本人の考えに従わないといけないなら、頑張って自分の考えをまとめる時間は無駄だし、表現する価値もないと考えてしまいます。当然の結果として、優秀な現地人材はこのような行動をとる日本人とは働きたくないと感じ退職していきます。一方で、そうではない人材が従順さを表面的に装い指示待ち化していくのが海外拠点の現場で起きている実態なのです。

本質的な解決の方向性にそっていえることは、日本人は現地人材と対話するとき、「議論」を強く意識した方がよいです。“本来の”議論は「否定と肯定」「反対と賛成」を必ず伴い、「否定と反対」が少ない日本での「“様子見色”の強い打ち合わせ」とは大きく異なります。「議論」を通して、相手の考えや意見を活用する余地を自分の中で広げる努力が日本人には必要だと思います。

海外拠点に“高い目標を期待する”ときは、「ガッツ」ではなく「公平」に!

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第39回
海外拠点に“高い目標を期待する”ときは、「ガッツ」ではなく「公平」に!

 人生でも仕事でも高い目標を描き、それを達成するために努力することは大切なことです。会社組織では経営層は達成すべき目標を高く設定し、社員を動機づけしなければいけません。しかし、特に海外拠点では、目標をブレークダウンする際に「公平」というキーワードを忘れてはいけないのです。

 日本企業の海外拠点、特に、中国など経済成長の高い新興国の営業拠点で、現地社員から期初に次のような声をよく聞きます。
「こんな目標は高すぎます!」
「これが目標なら、最初からC評価以下が決まっています・・・」
「モチベーションを維持できませんし、やってられません・・・」
 
このような彼らの声の裏側には日本企業特有のマネジメント特性が隠れているのです。ひと言でいうと、多くの日本企業での目標管理が予算管理から分離して適切に連動していないことです。通常日本では、予算を達成するために、目標管理上の「目標」に「ガッツ」が加わってしまいます。そのため、目標設定シートに記述される内容は、「目標」ではなく「ガッツ」に様変わりし、達成水準が自ずと「上振れ」してしまいます。当然のことながら、結果が未達になることが多くあります。しかし、目標は未達でも、ほとんどの社員は平均的なB評価になり、若干、B評価以下の社員もいれば、B評価以上の社員もいるという不自然な評価結果になることが多いです。
日本の組織では、できたね!次はさらに頑張ろう!と社員を鼓舞するよりも、まだできていない!だからもっと頑張れ!という具合に、常に目標を引き上げ続け、ホッと一息つかせず根性を掻き立て続けるような仕掛けの方がまだまだ一般的なようです。

ここでもう一度、海外拠点に目を移してみましょう。日本本社の業績が伸び悩む中、特に新興国の拠点に対して、本社経営層は期待を膨らませます。本社でのマイナスを海外のプラスで補いたくなり、成長性の高い拠点に「過度な期待」を要求してしまいがちです。一方で、海外拠点のトップはサラリーマンですから、本社の役員や事業部長からの期待になかなか逆らえず、また、対等な議論も十分できず、日本側からの「過度な期待」を引き受けてしまうことが多くなります。そして、この「過度な期待」が多くの場合、現地拠点の「目標」になり、そして、「予算」になってしまいます。皮肉なことに、海外拠点では現地社員に適用される目標管理は予算管理と連動してしまうことが多いのです。
 そもそも「過度な期待」であることから、どんなに頑張っても、結果が未達になってしまうことがあります。この場合、海外拠点の中で「不公平」なことが起きてしまうのです。拠点のトップや駐在員の日本人は、「ガッツ」を持ち続けたことが本社から斟酌され、(過度な期待)目標が未達でも平均的にB評価、あるいは、それ以上になることすらあります。しかし、原則、現地人材はC評価以下になってしまうのです。その時々の財務状況次第では、C評価になった特定の社員をなんらかの理由をつけて救済しB-やBに引き上げることもありますが、この対応が一般化すると、目標設定の意味が薄れ、目標管理自体が機能不全に陥ってしまうことになります。
 
 海外では、自分の成果に相応しい報酬を求め、市場価値を高めたいと思っている優秀な現地人材は、このような「不公平」を我慢することは少なく、多くは退職してしまいます。一方で、向上心が低く、どちらかというと雇用の安定を優先する社員が滞留してしまい、現地社員の間には緊張感が低くなってゆきます。その結果、彼らに対して日本人は、「高い目標を達成する意欲も向上心もない!」とストレスを高め、本来目指していることに照らして、パラドックスに陥ることになってしまうのです。
 海外拠点で「適切」で「公平」な目標管理が実行されないと、組織は次第にこのような憂慮すべき実態に導かれてしまうのです。

 仮に、中国の拠点で営業目標が未達になってしまった場合、その大きな原因を中国経済の最近の失速に理屈づけることは必ずしも正しいとは言えません。実際のところは、中国人社員に働く意欲と向上心を失わせてしまっている事実や人事マネジメント上の失策があることをきちんと視野に入れ、改善を実行していかなければいけないと思います。

日本人は「感謝」の言葉、「褒める」言葉を表現することが苦手!?

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第38回
日本人は「感謝」の言葉、「褒める」言葉を表現することが苦手!?

 結婚式のスピーチで「夫婦円満の秘訣は、お互いが“閾値”を上げないことです!」という新郎新婦へ贈る大変意味深い言葉があります。
 “閾値(イキチ)”という言葉はあまり聞きなれない言葉ですが、その意味は「生体が反応を示す最小の刺激量」ということです。具体的にイメージしやすいのは、自分の手の甲をつねったときの現象です。最初、「痛い」と感じる「つねる強さ」があります。何度か手の甲の同じ場所をつねると、「痛い」と感じる「強さ」に変化が起きます。最初につねった強さが痛いと感じなくなってしまうのです。痛いと感じるにはさらに強くつねらないといけないのです。この現象を「閾値」が上がるといいます。
 夫婦の関係では、新婚のとき最初、お互いに「ありがたい!」と感じる「レベル」が誰にでもあるはずです。しかし、時間の経過とともに「ありがたい」と感じる「レベル」に変化が起きます。新婚のとき相手にしてもらったことがもはや「ありがたい」と感じず、当たり前の「レベル」に感じてしまうのです。「閾値」が上がるとはこういうことですが、意識せずに上がってしまう性質があります。「閾値」つまり「当たり前のレベル」を上げてしまうと、お互いの間で「ありがたい」と感じることが徐々に少なくなっていき、感謝の言葉も少なくなっていくので、夫婦円満の秘訣は「閾値」を上げないことになるわけです。

国内外問わず日本企業の職場では、上司と部下の関係において「閾値」が上がる現象がよく起きます。個人差はありますが、部下が頑張っていい仕事をした場合、多くの上司は「頑張ったね!」「いい仕事したね!」と一時的には褒めます。しかし、部下が同じようなよい仕事を続けても、上司は前回と同じように褒める言葉をかけません。その理由は「前回できたことは今回できて当然」と考えるからです。現場の「改善」活動で商品やサービスの品質を高めてきた日本企業では、この“国内仕様”の思考・行動文化が黙示的規範として定着しているのです。

一方で、グローバル化、つまり、外国人と「誤解」や「軋轢」少なく意思疎通できる状態を達成するためには、日本人は“世界仕様”の行動を身につけていかなければいけません。「助けられた」「ありがたい」と感じたら、「ありがとう!」「Thank you!」、「いいな」「よくやったな」と感じたら、「いい仕事だね!」「Good Job」と表現することが大切です。「○○を感謝している」「○○をとてもよいと感じた」という具合に、その対象を具体的に表現すると、もっとお互いの理解を深めることに繋がります。多文化社会では「お互いわかり合えなくて当然」がコミュニケーションの前提ですから、お互いが理解できるようにできるだけ具体的に表現し合うことが行動原則になります。

さらに、応用編として、日本人が「少しの変化」を認知する表現習慣を身に着けていくと、外国人との対話を深めることができるだけでなく、人や組織の成長も加速させることができます。

商品やサービスの「改善」と違って、通常、人の行動や仕事のアウトプットは、少しの改善だとなかなか認知されません。少しの変化を含めて前回と同じレベルと認知されてしまう傾向があります。そうすると、部下は、褒めてもらうためには大きな変化が条件になると感じ、徐々に息切れし、同時に、上司も感謝や褒める言葉と表現を失っていくことになります。

もし前回と同じレベルの仕事だとしても、よいレベルを続けることは継続的な努力が必要で大変なことです。ですから、前回と同じレベルでも、「今回も○○の件はいい仕事だったね!いい仕事を続けることは素晴らしいことだよ」という具合に、「よい」と感じることを、まず、具体的に認知して褒めることが大切です。さらに、「次回、もう少しうまくできることがあるとしたら何だと思う?」というように、次に向けて相手のポジティブな考えを引き出すことが大切なのです。そのためには、「オープン質問(=「はい」「いいえ」で答えることができない質問)」をすると効果的です。

「便りがないのはよい知らせ」や「無言のうなずき」などの考え方や行動は、外国人にはなかなか理解してもらえません。「ありがたい」「よい」と感じることを具体的に言葉で表現することが多文化環境の中では必要なのです。そのような言葉は心の潤滑油にもなり、不必要に相手に不安を与えることを防ぐこともできます。外国人と信頼関係を作り感度を合わせて仕事をするための必須課題といえるでしょう。

「企画部」は海外組織では機能しない!?

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第37回
「企画部」は海外組織では機能しない!?

 多くの日本企業では、経営企画部や事業企画部のように「企画」の名称がつく組織があり、通常、社内の中枢組織としてうまく機能しています。

 終身雇用的慣行のもとでは、社員の働く大義名分は「会社のため」です。したがって、1人ひとりの社員が協力し合って仕事をすることは当然で、企画部から理にかなった要請や依頼があれば協力を惜しみません。

 また、企画部で働く社員は 会社全体や事業全体のビジョンや戦略を実現するために、組織横断的に行動することが求められ、他部門の社員と連携して成果を上げることが使命になります。そのため、社内の仕事や人脈にある程度詳しく、調整能力や説得力が高い人材、つまり、社内で将来を期待されている人材が企画部に配置されることが多いです。

 さらに、他部門の社員は、定年まで一緒に働くという前提のもと、企画部の“できる人材”がいつか自分の上司になるかもしれないと推測し、企画部からの多少の無理難題にもなんとか対応することが多いのが実態です。

 では、海外拠点の組織で「企画部」を作った場合、日本と同じように機能するのでしょうか?

 案外、日本企業の海外拠点では日本での組織設計がコピー&ペーストされ、「企画」の名称がつく組織が散見されます。そして、この組織には本社から派遣される人材の中でも“できる”人材が配置されることが多いです。ところが、この“できる”人材の多くが現地で大変苦労しているのです。「組織横断的に行動しようとしても誰も言うことを聞いてくれない」「各部に説明するとき、毎回反発されるので、いつもドキドキする」といった具合にかなりストレスを溜めてしまいます。一方、相談を受けた社長や組織の長の日本人が「日本と海外での人の行動原理の違い」を理解していない場合、「各部を全社的な視点で横断的に動かすのが企画部の仕事!君の仕事だ!各部が動かないのは君の努力不足だ。頑張れ!」と日本の感覚で一蹴し、“できる”人材を困らせてしまうのです。

 海外には終身雇用的慣行はありません。労働契約を結んで(就社ではなく)就職している現地人材には「会社のため」という大義名分や基本発想はありません。一人ひとりが協力し合うよりも、上司との関係で仕事をすることが行動原則になります。

 そもそも、他部門の現地人材は企画部という組織に違和感を抱きます。各部門内でも企画(=Planning)をする役割があるのに、新設された企画部はそのPlanningの役割を奪い、各部は実行部隊になるのか?企画部のPlanningと各部のPlanningは重複するのか、それとも異質なのか?
といった疑義です。
 
 さらに、実際の実務の中で各部門が最も大きな問題と考えるのは、企画部からの様々な要請、指示です。企画部と「同列」の各部の現地人材は、「企画部長や企画部スタッフは自分の上司ではない!」「上司でない同列の人からいちいち指示されたくない!」といった気持になります。結果的に、企画部がリードする仕事に対しては「組織的観点」から否定的、批判的になるのです。企画部長やスタッフがよほどの人格者か、各部の部長やスタッフと特別な深い個人的関係をもっていなければ、企画部からの要請や指示に対して各部の現地人材が協力的な行動をとることは考えにくいことなのです。

 海外拠点では原則、日本的感覚で企画部を作らず、社長や組織の長は、「企画」は自分の役割の一部だと認識し、自ら各部長に直接仕事を要請し指示することが望ましいのです。このような行動をとることこそが、社長=経営者として大きく成長するためのチャレンジともいえます。

 他方、どうしても企画部を作りたい場合は、企画部を機能させるために次の2つのどちらかを選択し、社長自ら社内に周知させることが大切です。一つ目は、社長の役割のうち企画部に任せる経営課題を特定し、それについての日常的な指示命令権を企画部に委譲することです。二つ目は、企画部に任せる経営課題を特定することが難しい場合、企画部から各部への日常的な要請や指示は全て社長の代行である、つまり、各部長にとって、上司からの要請、指示であると位置づけることです。このどちらかが各部に正しく理解されれば、企画部に配属される日本人の“できる”人材は仕事がやりやすくなり、本来の実力を発揮しやすくなるのです。

相対評価 V.S. 絶対評価

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第36回
相対評価 V.S. 絶対評価

 第12回でお話しましたとおり、日本企業が導入してきた成果主義型人事制度の多くは「30%感覚」に基づく成果主義“風味”です。具体的には、上司と合意した目標の達成度などは評価結果に約30%しか影響せず、「上司の好き嫌い」「上司の主観」といった“見えざる要素”が残りの70%影響しているという感覚です。

 この「30%感覚」は各層の上司と部下の間で連鎖的に共有され、当たり前のことと認識されています。当然の結果として、上司は部下の「成果」を評価する「判断基準」や「具体的根拠」を明確に説明することが難しくなります。一方で、部下は自分の評価結果に疑問を感じても上司に説明を求めなくなります。その大きな理由は、「どうせ説明できないのだから上司をあえて困らせるのはよくない」「他の皆が説明を求めないから」「説明を求めると変な奴と思われるかもしれないから」といったことです。つまり、日本人の上司、部下の間では、評価結果や評価方法について「正面から向き合った」対話が起きにくくなってしまうのです。

しかし、この状況を放置すると、評価について上司と部下がお見合い状態になり、よそよそしい関係を続け、士気の低下につながりかねません。そこで、このリスクを解決するために、評価結果を裏付ける「もっともらしい」方法が必要になります。それが、相対評価なのです。合意した事項が30%、“見えざる要素”が70%影響した各社員の評価結果を「正規分布」させ、全体の中で評価結果を再調整する方法です。

S・A・B・C・Dという5段階の相対評価では、上司は部下の評価をAとしたが、正規分布させるとBになるといったことが起きえます。上司は部下に「俺はAと評価したが相対評価の結果Bになってしまった。気を悪くしないで頑張ってくれ・・・」という力のないコメントをせざるをえなくなります。部下は「相対評価だから仕方ないか・・・」「まあ、上司が良い評価をしてくれているからいいか・・・」と自分に言い聞かせ気持ちを切り替えることになります。

このような論理性や納得性の低い状態をお互いに当たり前のことと是認し、根本的な問題解決を控える本質的な原因は、「終身雇用的慣行による安心感」をお互いが優先してしまっていることだと考えられます。もし雇用の保障が前提になければ、このような現状を是認することなく、お互い緊張感をもって間違いなく現状打破に取り組むことになると思います。

つまり、終身雇用的慣行のもとでの「30%感覚=評価基準が明確でないオペレーション」では、「もっともらしさを装う手段」として「相対評価」が必要になるのです。

残念なことに、日本企業の海外拠点の多くでは、「30%感覚」の日本の評価制度がコピー&ペーストされ、さらに、日本人駐在員が何も疑うことなく「30%感覚」を前提とした「相対評価」を現地人材に適用し、結果、たくさんの軋轢を生んでいます。

海外では、上司と確認し合意した内容(目標や行動評価指標など)の結果が評価に95%影響することが一般的です。“見えざる要素”は上司の「裁量」の範囲として5%程度にとどめ、評価の説明性を上げることが鉄則です。この「95%感覚」のもとでこそ、上司は判断基準を明確に説明することが可能になるのです。

つまり、終身雇用的慣行がない海外の「95%感覚=評価基準が明確なオペレーション」では、「上司と部下が正面から向き合う手段」としての「絶対評価」が機能するのです。

 絶対評価を人事オペレーションで適切に機能させるためには、「説明可能な」評価基準が鍵になります。特に海外拠点で働く日本人駐在員は、試行錯誤を繰り返しながらでも説明力を高めるための「思考力」を鍛えることにチャレンジする必要があると思います。多少の論理の粗さには目をつぶり、できるだけ論理的に考え率直にわかりやすく表現することが大切です。

 絶対評価では、上司の評価はBだが、5人の部下のうち4人がAで1人がBというような評価結果は想定内のことです。この結果は明らかに「不自然」です。この結果から「何がおかしかったのか?」と考え、各社員がLESSONを得るプロセスこそが重要なのです。相対評価に依存すると思考停止を招きかねません。海外現場で日本人のグローバル化を前進させるためには、絶対評価へのチャレンジは避けて通れない道だと思います。

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