経営とビジネスの現場で、日本人の「思考」と「行動」に変化を起こす!「マネジメント実務」に変化を起こす!

コラム

言葉の「壁」を乗り越える方法

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第55回
外国人と仕事をするとき、英語や中国語などの外国語を駆使して意思疎通できることが望ましいのですが、多くの日本人ビジネスパーソンにとってあまり現実的ではありません。外国人と「誤解」や「軋轢」が少なく意思疎通でき、手戻りを少なく業務を前に進めることができる外国語の水準は、日常会話レベルという中途半端な水準ではなく、ビジネスレベル。正確に業務指示ができる、反対意見や賛成意見を伴う議論ができる、咄嗟の口論ができる――という水準です。
中学、高校、大学を通して約10年間英語を学んだ日本人のうち、どれだけの方がビジネスレベルの英語力を身につけているでしょうか。“ブロークン英語”でも意思疎通できるという「説」はありますが、実際は幻想です。この「説」を敢えて正当化するには、「相手の英語を正しく理解できるが、話すのは苦手。話す英語は“ブロークン”だが、内容は具体的・論理的に伝えることができる」――つまり、英語のリスニング力が高く、かつ日本語での論理的思考力が高いことが前提になります。実際のところ、このような日本人は大変少ないと言わざるを得ません。

方法①
ビジネスレベルの外国語習得を目指す
意思疎通には大きく2つの要素があります。「理解する」ことと「伝える」ことです。相手を理解するためには「読む・聞く」力が、相手に伝えるためには「書く・話す」力が必要です。ところが、日本の学校での英語教育は「理解する」ための「聞く」力、「伝える」ための「話す」力を育てず、文法や発音という品格(「読む」力、「書く」力)に重きを置いてきました。その結果、日本人の英語力は、「理解する」ことも「伝える」ことも片手落ちになっているのです。しかも皮肉なことに、日常における「聞く・話す」時間は、「読む・書く」時間よりも圧倒的に長いのが現実です。
つまりビジネスレベルの英語力を培うには、この「聞く・話す」力を磨かなければなりません。しかし言語的に母音中心である日本語はそもそも、子音中心の英語に比べて「音の幅」が狭いため、日本人が英語を聞くとき、「聞き取ることができない音」がたくさんあります。このディスアドバンテージを克服するには、とにかく脳の中に「英語の音」をたくさん溜めなければいけません。つまり英語を聞く時間を最長化することが重要です。しかもダラダラと定期的にではなく、短期集中的(=数年)に、です。
次に、脳内に溜めた音と同じ音の言葉を発する、音を組み合わせて複数の言葉として発する、あるいは文章として発する――という具合に、インプットした音をアウトプットしなければいけません。まさに日本人が、生まれてから日本語を習得するまでのプロセスを、短期集中的に疑似体験するイメージです。
この段階における脳は通常、まだ英語脳(=英語を受信して英語で発信する)ではなく、長年にわたって形成された日本語脳(=日本語を受信して日本語で発信する)です。そのため日頃、日本語で考えたり話したりしている内容以上のことは英語で話せません。
したがって、日本語で明日誰かに話したいことなどを、頻繁に英語で表現することが効果的です。お勧めの方法は、ICレコーダーに自分の発信したい内容を日本語で録音すること。仕事上のことだけでなく、喜怒哀楽に関わることも対象にすると気が楽です。そして、録音した日本語を何度も聞きながら英語に置き換えて話したり、書いたりしてみましょう。自分の日本語がいかに英語に翻訳しにくいかに気づくはずです。これを繰り返すと、自分の日本語も“正常化”させることができるので一石二鳥です。

方法②
外国語に自信がなければ「通訳」を使う
 日本の英語教育がもたらした罪といえますが、方法①で成果が上がる日本人は、残念ながら少数でしょう。他の外国語ではなおさらです。こうした現状で〈英語ができる日本人=グローバル人材〉と短絡的に定義することは現実的でありません。
英語ができなくてもグローバルで「仕事ができる」日本人はたくさんいます。言語的実力を「過信」せず、「仕事の成果を上げる手段」として言葉の問題を解決することが大切です。つまり、中途半端な外国語で仕事するリスクを回避し、通訳を使って仕事を前に進める「勇気」と「謙虚さ」を持つことが現実解といえます。通訳を使うことは手段にすぎず、「恥ずかしい」ことではありません。が、通訳の「質」にはこだわる必要があります。
第44回で取り上げたテーマのとおり、日本語での思考と行動を世界仕様に変化させる努力をする一方、言語の「壁」を、無理せず通訳を使って乗り越えていけば、外国人との仕事はスムーズに進むはずです。

「個人力」を強化する

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第54回
日本人の持つ集団力はお家芸(=最も得意なこと)といえますが、世界一とはいえません。しかし仮に集団力を『協調力・同調力』と定義するならば、日本人の集団力は世界一でしょう。
かつて日本企業の集団力が世界市場を席巻した時代があります。バブル崩壊までの、いわゆる右肩上がりの時代です。バブル最盛期の80年代後半は、まさに「Japan As No.1」でした。経済に勢いがあったのは事実ですが、それ以上に、日本企業で働く日本人のメンタリティーと行動による集団力が、日本企業を“世界一”に導いたのです。
私はその集団力を「世界を驚かせた摩訶不思議な集団力」と呼んでいます。世界でも類稀な「定年まで給与が上がり続けることが前提の終身雇用」「年功序列」などの慣行、また「会社と社員は運命共同体」という思想をベースとした“新興宗教的”「安心感」が、とてつもないパワーをもつ不思議な集団力を生み出し、日本企業を“世界一”に押し上げたのです。
バブル崩壊後、多くの日本企業は失速し、約20年間、「輝く出口」を求めて迷走してきました。過去の成功は人々の記憶と心に深く残り続け、“集団力”という安定した基盤が崩れた今でもなお、「(あの時の)集団力で勝負できる」と考える人がいるのが現実です。が、この考え方では世界で戦うことは難しいです。

世界で戦う「集団力」に必要なこと
どんな組織でも集団で成果を追求する限り、集団力は必要です。では、世界で戦う「集団力」を持つために今、何が決定的に欠けているのでしょうか。
答えは「個人力」です。一人ひとりのレベルで「個人力」を強めることが求められています。そして強い「個人力」をベースとした「集団力」を、最大化できる「強いリーダー」を作る必要があるのです。

「コーディネーター」を求める日本人
終身雇用的慣行のある日本企業では、「空気」や「状況」が社員の思考と行動を支配する傾向が強いため、協調性や同調性の高い社員が多いです。また各社員が自分の考えや意見を「適切に呑み込み」、個人の押し出しを控えるため、個人間の競争が少なくなります。
このような組織ではチームのトップに、長期的な人間関係を前提とした相互の気遣い気配りを優先し、メンバーを平穏にまとめることができる「コーディネーター(=調整役)」が求められます。しかしメンバーの「個人力」がさほど高くないため、よほどの偶然性や希少性が伴わない限り、組織の「集団力」は世界で戦えるレベルになり得ません。

「リーダー」を求める外国人
他方、終身雇用的慣行がない外国企業では、社員が自分の市場価値を高めることを優先するため、独自性や主張性の高い尖った人材、つまり「個人力」が高い人材が多いです。このような組織はメンバー間の協調性や同調性が低いため、チームのトップが「コーディネーター(=調整役)」では力不足。“自己主張の嵐”が吹き荒れるため、メンバーの話に聞き入り、最大公約数的な意見をくみ取ることが大変難しいのです。
したがって「リーダー」が必要になります。リーダーは議論の場で、メンバーの影に隠れるのではなく、自分の考えを堂々と、分かりやすい言葉で明確に表現できなければいけません。また議論を論理的に運び、メンバーの理解と共感を得て判断する力が求められます。最後はリーダーが責任を持って決めるのです。
一方で、メンバーの反対意見や異なる意見を想定し、それを感情的に否定することなく議論の材料に加える「度量」も大切です。社員の中にはリーダーと橇が合わず組織を去る人もいますが、こうした組織で育った人は個人力が高いので、他の組織でも活躍することができます。
日本の企業社会では、「個人力」を “自己中心の代名詞”としてタブー視する傾向があります。しかし日本企業が今後、外国人社員の力を借りて世界で戦う「集団力」を持つためには、グローバルビジネスに関わる日本人社員が、それぞれの立場においてプロフェッショナルな知識・知恵・技術に裏付けられた思考力、行動力をベースとする「個人力」を強化することが重要だといえます。

自分の「考え」や「意見」を表現する

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~思考と行動をアップグレードする~

第53回
「尖っている」人材V.S.
「平均的な」人材
売れる商品やサービスに「特徴」と「競争力」が欠かせないのと同様、“売れる人材”にも、「特徴」と「実力」がなければなりません。
日本の組織の中で「あの人は尖っている」という表現は、どちらかといえば良い意味で使われています。個性が強く、主義主張がはっきりしているという「特徴」があり、しかも社内で一目置かれている人を「尖っている」と表現しています。一方、「特徴」は同じでも、社内で一目置かれていない人は、「変人」「アウトロー」などと呼ばれます。社内で一目置かれるか置かれないかは紙一重。本人の要領の良し悪しや運にもよります。ただ、このような人材は、どちらのタイプでも“市場で売れる可能性“が高いのです。
しかし、残念なことに日本企業では、このような人材の絶対数がまだまだ少ないと言わざるをえません。日本企業で働く多くのビジネスパーソンは、同質度の高い環境の中で、結果的に頭ひとつ抜け出すリスクをとらず、自分を「平均化」させてしまっているのが実態といえます。

質問に強くなる
一方海外では、日本人が「尖っている人」「変人」「アウトロー」と感じる人材の絶対数が、大変多いです。彼らは個人としての「考え」や「意見」がはっきりしています。
外国人社会は異質度が高く、そもそも互いに理解し合うことが難しいため、少しでも互いを正しく理解するための質問が日常的に、頻繁に交わされます。そして必然的に「理由や根拠の説明を求める質問」が多くなります。
しかし日本人はこのような質問に不慣れであるため、自信をもって論理的に、率直に答えることが苦手です。答えに窮して「難しい質問ですね・・・」と言って照れ笑いする姿、あるいは焦りから、質問とは関係ないことを支離滅裂に答える姿がよく見られます。
さらに日本人は、組織の中で自らこのような質問をすることが少ないです。考えられる理由は3つあります。1つ目は、同じような「考え」や「意見」が多いためそもそも疑問を感じることが少ないこと。2つ目に、相手のメッセージを勝手に解釈して自分の「考え」や「意見」と同化させてしまうこと。3つ目は、自分の能力を疑われるかもしれないという不安――こうした理由から、会話が表面的にさらりと流れてしまい、結果として、互いの理解が深まりにくくなるリスクを恒常的に抱えることになってしまうのです。
居酒屋でお酒の勢いを借りて互いにいつもより一歩踏み込んで質問し合い、「今日の話は深い!」と感じたときは、まさに互いの「考え」や「意見」を率直に表現し合えた「瞬間」なのです。

自分で深く考える
日本の組織で働く日本人は一般的に、周囲と同じような考え方で、同じような行動をとっている方が、集団の中に自分の居場所を確保できて心地よいと感じるため、自分の「考え」や「意見」を持つことを躊躇する傾向があります。また仮に持っていても、それを表現することにはためらいがちです。あるいは表現するとき、他人の発言内容やメディアの発信内容をそのまま「コピペ」し、いざというときの「逃げ道」を作る場合が少なくありません。
大勢に身を置くことや意見の横流しは、明らかに人の思考を浅くします。〈社会や組織の構造、利害関係などを視界に入れて自分の頭で深く考える〉というステップが抜けてしまうからです。社会、組織、人間関係の問題にはそれを引き起こしている数々の事実があります。そして、その事実が起きる理由があります。これについて自分で仮説を立て、自分で調べて検証することが、独自の見方や持論を持つうえで大切なのです。
「考え」や「意見」に正解はありません。世界では、自分の「考え」や「意見」でどれだけ多くの人を納得させることができるか、どれだけ多くの人の共感を得ることができるかが勝負となります。
外国人と仕事をするときは、周囲の目を過度に気にせず、自分の「考え」と「意見」をもつことが大切です。その内容を「独り言で表現する」、あるいは「書きとめる」ことを習慣にすると、必ず自信に繋がります。また外国人に質問されても躊躇せず、「よくぞ聞いていてくれました!」と、ポジティブな気持ちで明確に表現できるようになります。

外国人リーダーの下で仕事をするときの2つの行動課題

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第52回
7、8年ほど前から、20歳代半ば~30歳代前半の若手社員が1~2年の海外実務研修員、あるいは駐在員として、海外に赴任するケースが増えてきています。若手社員に入社後の早い段階で多文化社会を経験させ、グローバル人材としての素養を磨く機会を与えることは、今後日本企業が世界でサバイバルしていくための必須条件といえます。
 特に英語圏に赴任する場合、このような若手社員は現地採用の外国人上司やリーダーの下で働くことが多くなります。しかし日本人と外国人の行動原理の違いに直面し、外国人上司やリーダーの行動に違和感を抱くことが多くなるようです。これは日本人の若手社員から受ける相談内容の一例です。
「知らないうちに、すでに決まったことを外国人リーダーが突然変更するんです。メールを見て気づきました」「外国人リーダーって独裁的なのでしょうか? トップダウンとはこういうことなのでしょうか」……
 組織の中で働いている場合、よほどの“独裁者”でない限り、一人で物事を決める人は少ないです。リーダーであっても何かを決めるときは一人の人間として不安を抱えるのが自然です。そのため、キーメンバーに「声をかけ」、自分の考えや結論について相談、議論したうえで最終判断することが普通です。
この相談内容における問題点は、〈日本人メンバーに声がかからないことがよくある〉ということなのです。では、外国人上司やリーダーから声がかかるための行動課題は何でしょうか。

行動課題①「スパイ化」しない
日本人メンバーが、外国人リーダーとの間にレポート関係があるにも関わらず、日本本社を向いて仕事をして「スパイ化」してしまうことがよくあります。
具体的には、外国人リーダーが日本本社から反対されそうな案を敢えて日本人メンバーに相談してみると、それがリーダーの強い意向であるかのように本社に伝わり、本社から先に牽制を受けてしまう、またはネガティブな印象を持たれてしまうことがあるのです。このようなケースを数回経験すると当然、外国人リーダーは日本人メンバーへの不信感を強め、声をかけることを控えるようになります。本社側が日本人メンバーにこのような行動をとることを期待している場合も案外多いのですが、これは彼らの貴重な時間を無駄にしてしまい、グローバル人材育成の点では明らかに逆効果です。

行動課題② チーム内で「価値がある存在」になる
外国人リーダーにとって日本人メンバーが、「声をかけて相談、議論する価値の低い存在」になってしまっていることが多いのです。このような日本人メンバーは日常的な議論の場でニコニコしながら黙っているか、言葉足らずであいまいな表現に終始し、自分の意見を明快に主張していないのです。また、YESかNOかを求められ、とりあえず「YES」と言ったものの、その後、陰で否定的な行動をとっていることも多いです。
 実際のところ、外国人リーダーにとって「価値がある存在」とは、より明快な論理やより強い根拠でリーダーの結論をサポートし、賛成してくれそうな人や、説得性の高い論理で敢えて反対、牽制し、異なる視点を与えてくれそうな人なのです。
日本人リーダーも何かを決めるとき、“同調し賛同してくれそうな”信頼できるキーメンバーに声をかけますが、相談して判断を固めた後、全メンバーに声をかけて事務的に確認をとっているだけなのです。日本人リーダーの下では、メンバーとして黙って状況を静観していても、日本人リーダーが「気を配って」メンバー全員に声をかけてくれることが多いのです。しかし、外国人リーダーの下では通常、自ら発信し行動し「存在」をアピールすることでリーダーにとって「価値ある存在」になることが大切なのです。
若くして外国人リーダーの下で仕事をする機会を与えられた日本人は、スイッチを切り替えて自分の意見を明確に、論理的に表現する習慣を身につけ、大きく成長してほしいものです。そのためには日頃、自分の考えや意見を約200字から400字程度で言い切る練習をすることが大切です。具体的な手段としてはノートやパソコンを使って「書く」、あるいは、ICレコーダーに録音するなどの方法がお勧め。さらに内容をその都度、英語に翻訳する練習をすると、英語の上達にも大変役立ちます。

大声で感情的に怒らないための本質的な行動課題

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~思考と行動をアップグレードする~

第51回
外国人社員と仕事をするとき、日本人の期待どおりに考え、行動してくれる状態を作ることは、大変難しいです。日本人のように同調し、あまり深く考えずに適合してくれる温順な外国人社員はほとんどいないのです。外国人社員に、期待していることや学んでもらいたいことを正しく理解してもらうには、日本人がその都度、適切な言葉で丁寧に、分かりやすく説明しなければいけません。
通常、外国人社員が「誤解」する大きな原因は、彼らの理解力にあるのではなく、彼らが日本人と同じバックグラウンドをもっていないことです。したがって、相手が日本人のときよりも行間を埋めて言葉数を多くし、より具体的・論理的に、丁寧に説明しなければ、外国人社員は日本人から期待されている内容を正しく理解することができないのです。
しかし、言葉数が少ないコミュニケーションに慣れている日本人は、特に新興国で日本語を使ってコミュニケーションする場合でも、たいてい本能的に「面倒くさい!」と感じてしまいます。「それではいけない!」と気持ちを切り替えて説明を始めると、今度は説明を重ねる過程で自分の「語彙(=ボキャブラリー)」を早々と使い果たしてしまい、説明に必要な「適切な表現」を見つけることができなくなってしまうのです。

◆「日本的感覚」の落とし穴
同じ失敗を繰り返す外国人社員を指導するとき、「言葉」や「適切な表現」が見つからないと無意識のうちに苦しくなり、イライラ感から、「こんなことも分からないのか!」「何度言ったら分かるんだ!」などの感情的な表現で語気を荒げてしまうことになります。そして、周囲に他の社員がいてもお構いなしに「叫んでしまう」のです。
日本の企業社会において「人前で大声で叱る」行動は、本人に「人前で叱られることで恥をかき、二度と恥をかきたくない気持ちにさせ」る一方、周囲に対しては「戒めや警告」を意味します。そして、こうした手法は過去、組織の中である程度受け入れられてきた経緯があります。この「日本的感覚」で叫んでしまう人は、「後で相手をフォローすればよい」と思っているのですが、実際には「感情的な人」というネガティブなレッテルを貼られてしまい、汚名返上は大変難しいのが実情です。

◆「目的」を見失わない
日本の企業社会では「集団」に立脚した行動原理が優先されます。そのため各社員には、「空気」や「状況」を優先して素直な感情や率直な意見を表現することを控え、周囲の大勢(たいせい)に同調、協調することが求められます。
一方、海外では「個人」に立脚した行動が優先され、自己表現、自己主張することが各社員の存在価値になります。したがって外国人は、日本人の想像をはるかに超えてプライドや面子(めんつ)、そして一人の人間としての「尊厳」を大切にするのです。この「尊厳」が人前で傷つけられることは、彼らにとって一大事なのです。
たしかに、場所を個室に移して1対1の環境を作れば、人は多少冷静になることができます。しかし、個室で指導するための「言葉」や「適切な表現」が見つからなければ、結局は叫んでしまうことになり、指導したい「内容」を相手に正しく理解してもらうという「目的」が達成できません。

◆「言葉」と「表現のバリエーション」を増やす
組織の中で、感じたことや考えたことを表現せず、「適切に呑み込む」ことが習慣になっている多くの日本人は、無意識のうちに「言葉」と「表現のバリエーション」を徐々に失ってしまいます。その結果、組織の中で皆が使い慣れている定型的な言葉や表現に偏ってしまうのです。
組織内の「空気」や「黙示的規範」によって自己表現が抑制されてしまいがちな日本人は、自分の意見を率直に表現する、あるいは論理的に愚痴る、議論する機会を、組織の外でできるだけ多く作ることが大切です。人前であろうと1対1の環境であろうと、「感情的」にならず、その場の「目的」を達成するには、「内容」を伝えるための「言葉」と「表現のバリエーション」を増やすことが、本質的な解決策なのです。

情報量が多く期待できる「OPEN質問」

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~思考と行動をアップグレードする~

第50回
日本人は外国人社員と仕事をするとき、仕事のやり方、進め方を教えなければいけないと感じ、「伝える」行動を一所懸命とります。一方で外国人の気持ちや悩み、日本人の視野にない新しいアイデアや意見などを知り、理解するためには、「聞く」行動も大切です。ところが、日本人の「質問」には特異な傾向があるため、本来の「聞く」目的が十分達成できていないことが多いのです。

◆2種類の質問
1.相手の質問に「はい、いいえ」で答えられる「YES・NO質問」
 例えば、「○○しましたか?」「○○できますか?」「○○すべきだと思いますか?」 などです。これらの質問に対する相手の答えは「はい(YES)」か「いいえ(NO)」となるので、会話は質問と答えで完結してしまいます。このような「YES・NO質問」は通常、「事実確認」や「意思確認」を目的に使われますが、実際の職場でのコミュニケーションでは、相手を「確認後に伝えたいこと」に誘導する目的で使われることが多いのが実態です。
2.相手の質問に「はい、いいえ」で答えられない「OPEN質問」
 一方、相手が「はい(YES)」や「いいえ(NO)」で答えることのできない質問の仕方に、「OPEN質問」があります。この質問には2種類の質問があります。
①答えが短くなる質問
例えば、「○○したのは誰ですか?」「○○が起きた場所はどこですか?」「○○を伝えたのはいつですか?」などです。英語では、「Who」「Where」「When」で始まる質問です。このような質問は相手に、「はい(YES)」か「いいえ(NO)」よりも「具体的な事実」が伴う答えを要求する質問です。しかし会話が質問と答えで完結する特性を持つため、質問の目的という点では、「YES・NO質問」と同じといえます。日本人が使う「質問」のほとんどは、「YES・NO質問」か「OPEN質問①」です。
②答えが長くなる質問
 では、どのような質問をすると、外国人をより正しく理解できるのでしょうか。
例えば、「○○は何ですか?」「どのように○○しますか?」「○○についてもう少し話してくれますか?」などです。英語では、「What」「How」「Please tell me about」で始まる質問です。このような質問に対しては、相手は自分の考えや意見を説明しなければならないので、答えは自ずと長くなり、情報量も多くなります。つまりこうした質問は、相手をより正しく知るチャンスを広げることになるのです。
 さらに、「○○したのはなぜですか?」「どうして○○したのですか?」という質問もあります。英語では、「Why」で始まる質問です。これは日常的に比較的使われがちな質問なので、相手の考えや意見を知ることができるかもしれません。しかし頻繁に使うと、相手が無意識のうちに守りの姿勢をとり、結果として、敵対的な雰囲気が出来る可能性があります。場合によっては、「なぜ(=Why)」で始まる質問が連発され、「たたみかける質問」になってしまう可能性もあるのです。
「“なぜなぜ質問”は3回以上繰り返しなさい」と教育される日本人は多いですが、本来これは、他人に対してとる行動ではなく、自分の思考を深めるために、自分に対してとる行動なのです。この質問の多くは「What」や「Please tell me about」で始まる質問に置き換えることが可能なので、対話を冷静に進行させるためには、「なぜ(=Why)」で始まる質問をあまり多用しない方がよいでしょう。

◆「書く」「見る」「使う」ことにより「OPEN質問②」を身につける
 日本では学校教育の影響で、「OPEN質問②」の質問習慣を身につけている日本人が大変少ないです。そのため一般的な日本人は、「OPEN質問②」を受けることも慣れていません。予期せぬタイミングでこの質問を受けると、答えに窮し、しどろもどろになることさえあります。しかし、外国人は幼少の頃からこの質問に答えることで、自分の考えや意見を論理的に表現することに慣れています。そのため外国人は、誘導的な質問が大変多い会話には違和感を抱いてしまうのです。
日本人が「OPEN質問②」のような慣れない質問を、自分の表現習慣に取り込む秘訣は、特定の場面をイメージし、その場面で使えそうな質問例をまず自分のノートやファイルに「書く」ことです。そして、書き出した質問例をできるだけ高い頻度で「見る」、そして実際に実験的に「使う」ことです。
外国人の考えを正しく理解し、目線を合わせた対等な関係で仕事をするためには、日本人は「OPEN質問②」に慣れ、「質問力」を高める必要があるのです。

「世界仕様の謙虚さ」を身につける

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第49回
「世界仕様の謙虚さ」を身につける

日本の企業社会では、会議で報告書を説明する場面や、あるテーマについてプレゼンテーションする場面の冒頭で、「まだ完全ではありませんが・・・」「まだ詰め切れていない部分も多々ありますが・・・」といった「前置きのセリフ」を無意識に使う日本人が大変多いようです。

◆牽制と「甘えの心理」は議論回避につながる
オーディエンス(=聴衆)に年長者が多い場合、「前置きのセリフ」は、「日本的な謙虚さ」として好ましく受け取られます。また「謙虚でかわいいやつだ」「内容が少々粗くても大目に見てやろう」という聞き手の心理を誘います。「セリフ」を使わないと、聞き手に自信過剰、あるいは傲慢であるとの印象を与えてしまい、その結果、厳しい質問をされて叩かれてしまう可能性が高まるのです。したがって説明やプレゼンの内容に自信があっても、“牽制”として「セリフ」を使ってしまう日本人が多くなるのです。
しかしこの「セリフ」は自分の未熟さや準備不足に対する「許し」を請う表現でもあるので、「セリフ」を頻繁に使い続けていると、無意識のうちに「甘えの心理」が働き、考え抜く緊張感を緩めてしまうことになります。そうすると準備が中途半端になり、説明やプレゼンの論理性が低下します。結果、徐々に自信がなくなり、話し終えた後にオーディエンスから質問や意見を受けることを怖く感じ、議論を避けるようになってしまうのです。

◆自分の価値が下がる
他方、オーディエンスが外国人の場合にこの「セリフ」を使うと、彼らは「自分で完全だと思える状態にしてから話してほしい」「詰め切れていない話をわざわざ聞くのは、時間がもったいない」と感じてしまいます。にもかかわらず発表やプレゼンを続けると、最初に疑問を感じていたオーディエンスは「内容に粗が多いだろう」という前提に立って話を聞くので、嵐のごとく、必要以上に質問される可能性が高まります。場合によっては最後まで発表させてもらえず、途中で「出直し要請」をされ、退散せざるを得なくなることさえあるのです。
このように「日本的な謙虚さ」が裏目に出ると、自分の価値を下げてしまうことになります。いったん“想定外に”落ちてしまった自分の価値を挽回するために要する時間は、残念ながら無駄な時間といえます。

◆「世界仕様の謙虚さ」は質の高い議論を導く
このような状態に陥らないためにも、オーディエンスが外国人の場合は「日本的な謙虚さ」を表わす「セリフ」を使わず、「考え整理してまとめたことをお話しします」とさっと切り出し、堂々と自信をもって話せばよいのです。そして話の締めくくりに、「以上で発表は終わりですが、ご質問やご意見がありましたら、遠慮なくおっしゃってください」「異なる考えや見方もウエルカムです」「率直な議論につながればと思います」と“謙虚に”言えばよいのです。
そうすれば通常はその場で、もしくは後にメール上で率直な質問や意見が飛び交い、結果的に質が高い議論が起きるものです。「世界仕様の謙虚さ」とは、話を聞いてもらった後、質問だけでなく、異論・反論も含めて率直な意見を受け止め、オープンに議論する用意があることを相手に伝えることなのです。プレゼンの場だけではなくメールでも同様です。このような「世界仕様の謙虚さ」を表わすメールの英語表現は、“Please do not hesitate to contact me if you have any other ideas and thoughts”が一般的です。

日本人が外国人と対等に話し、仕事するためには、「世界仕様の謙虚さ」を身につけることが大切です。初めに「日本的な謙虚さ」を示すことによって必要以上の異論・反論を招いたり、議論を避けたりしてはいけません。伝えるべき内容の論理と構成をしっかりと考え抜き、自信をもって話した後、反対意見も賛成意見も想定した「オープンでフェアな議論をする謙虚さ」を身につけることが、日本人にとって今後の大きな課題であり、チャレンジともいえるでしょう。

「感謝」の言葉、「褒める」言葉を相手に伝える

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第48回
「感謝」の言葉、「褒める」言葉を相手に伝える

◆「閾値」を上げてはいけない
 結婚式で新郎新婦へ贈るスピーチに、「夫婦円満の秘訣は、お互いが『閾値(いきち)』を上げないこと」という、大変意味の深い言葉があります。
 「閾値」という言葉はあまり聞き慣れない言葉ですが、「生体が反応を示す最小の刺激量」という意味です。具体的にイメージしやすいのは、自分の手の甲をつねったときの現象。初めてつねったときは、「痛い」と感じる「強さ」があります。しかし何度も同じ場所をつねっていると、「痛いと感じる強さ」に変化が起き、最初につねった強さでは痛みを感じなくなってしまいます。痛みを感じるには、さらに強くつねらないといけなくなるのです。この現象を「閾値が上がる」といいます。
 夫婦の関係では、誰でも新婚のとき、相手に「ありがたい」と感じる「レベル」があったはずです。しかし通常、時間の経過とともに、このレベルが「当たり前」と感じるレベルへと変化してしまうのです。「閾値」、つまり「当たり前と感じるレベル」を上げてしまうと、互いに「ありがたい」と感じることが徐々に減り、感謝の言葉も会話も少なくなってしまいます。したがって、「『閾値』を上げないよう、互いに意識し続けたほうがよい」とアドバイスするのです。

◆心で感じたことを言葉で率直に表現する
国内外を問わず日本企業の職場では、日本人上司と部下との関係において「閾値」が上がる現象がよく起きます。
部下が頑張って良い仕事をしたとき、多くの上司は「よくやったね」と褒めます。しかし、次も部下が同じような良い仕事をしたとき、上司は「前回できたことは今回できて当然」と考え、褒める言葉を掛けなくなります。この行動は日本の組織で深く根づいていますが、現場の「改善」活動によって商品やサービスの品質を高めてきた、日本企業ならではの行動文化といえます。
しかし外国人とうまく仕事をするには、日本人は“世界仕様の行動”を身につける必要があります。「助かった」「ありがたい」と感じたら「ありがとう」「Thank you」。「いいな」「よくやったな」と感じる仕事であれば「いい仕事だね」「Good Job」と表現することが必要です。こうした言葉は、相手の「次も頑張ろう」という気持ちに繋がるものなのです。

◆「わずかな改善」も認知する
商品やサービスと違って、人の行動や仕事のアウトプットでは、わずかな改善や変化がなかなか認知されにくいものです。そのため部下は通常、「大きな改善や変化しか、認知の対象にならない」と感じて徐々に息切れしていくと同時に、上司も認知の言葉や表現を失っていくことになるのです。
仮に前回と同じレベルの仕事だったとしても、良いレベルを続けることは大変なことで、努力も必要です。したがって、「今回も○○の件は良い仕事だったね! 良い仕事を続けることができるのは、素晴らしいことだよ」と言葉で認知することは大切です。さらに、「次回、もう少しうまくできることがあるとしたら、何だと思う?」と、相手のポジティブな考えを引き出す質問をすることも効果的です。

◆「感謝の対象」「褒める対象」を相手に言葉で表現する
夫婦関係の中で「感謝の言葉」を長年使っていない旦那さんが、恥ずかしさを捨てて一念発起し、奥さんに「ありがとう!」と言うと、驚きながらも嬉しそうに奥さんが、「何が?」と反応する――。笑い話のようですが、ある意味、女性の感覚は“世界仕様”といえます。
多文化社会では、互いが理解し合えるように表現することが行動原則になります。「○○を感謝している」「○○をとても良いと感じた」といった具合に、感謝すること、褒めることの「対象」を相手に具体的に表現することは、互いの理解を深めるのにとても有効です。

「言わずもがな」が通じる日本社会に生きる日本人にとって、こうした行動はなかなか慣れないことです。しかし言葉だけでなく、表情や身体も使って表現することは、外国人と信頼関係を作り、感度を合わせて仕事をするのにとても大切な行動なのです。

異なる意見を感情的に拒否せず、正しく理解する方法

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第47回
異なる意見を感情的に拒否せず、正しく理解する方法

◆大企業で働く日本人は意見の対立を避けがち
一般的に日本人は同調し協調する行動を好むため、通常は会議などの場で他人と違う考えや意見をあまり表現しません。その結果、日本の組織では日常的に、異なる意見が“表だって”対立する頻度がかなり低くなります。
事実、終身雇用的慣行が一般化している大企業では、好むと好まざるとにかかわらず、人と人が「長く付き合う」「気を遣い合う」ことが日々の行動の大原則になります。そしてこの原則が、良好な人間関係を維持するための「対立を避ける」行動習慣を心理的に後押ししているともいえるのです。

◆「意見」対立の解決方法は、一方が「折れる」のではない
日本人同士の「意見」が対立した場合、対立しているのは「意見」なのに、人間関係を考えて「感情」の対立や縺れを避けることが優先されます。そして、どちらかが“状況”を見て「折れる」ことになるのです。上司と部下の「意見」が対立した場合、当然ながら“パワーバランス”として部下が「折れる」「我慢して呑み込む」ことの方が多くなります。
海外では、そもそも「各個人の意見は異なる」ことが当たり前であり、異なる意見が対立することは日常茶飯事です。さらに、海外には終身雇用的慣行がないので、外国人は「長い付き合い」や「気遣い」を前提に行動する必要もありません。つまり上司との関係においても、議論せずに部下が「折れる」ことは基本的に考えにくいのです。
そのため、日本企業の海外拠点で日本人上司と外国人部下の意見が対立するとき、日本人同士の場合に期待できる“パワーバランス”が機能する確率は自ずと低くなります。むしろ相手の主張や異なる意見を正面から受ける機会が日常的に増え、日本人上司のストレスとイライラは高まりがちです。その反動から、相手の意見を理解せずに自分の考えを押し付けることが増え、そのせいで外国人部下との人間関係が険悪になり、徐々に疎遠になってしまうことが実際によく起きているのです。

◆「異なる意見を最後まで聞きなさい」というアドバイスは効果がない
「異なる意見を最後まで聞きなさい」というアドバイスを受け、相手の話を最後まで我慢して聞こうと努力したが、途中で挫折した――このような経験を持つ人は少なからずいると思います。
通常、相手の話を聞いている最中に「そうじゃない!」と感じると、相手の言葉は「音」としては聞こえていながら、同時に「音」がフェードアウトしたらどうやって相手を説き伏せようかと考える脳がフル回転し始めます。つまり、相手の話を理解する脳が停止してしまうのです。このとき表情はポーカーフェース、強張った表情、イライラした表情、微笑みを装った表情――など人によりさまざまです。興味深いのは、相手の言葉の「音」がフェードアウトした途端、ほとんどの人が「あなたの言っていることは分かりますが……」という決まり文句を“緩衝材”として使ったうえで相手の話を全否定し、「でも、こうでしょ!」と言っていることです。相手の話を理解する脳が途中で停止しているので、相手の話の論理を理解できているはずがありません。つまり「異なる意見を最後まで“聞く”」行為だけでは、相手の意見を「正しく理解する」ことはほぼ不可能なのです。

◆「異なる意見を正しく理解する」ための方法
対話の中で相手の異なる考えや反対意見を感じたとき、目を閉じて腕を組むのではなく、ペンを握って相手が主張している内容をメモし、最後にその内容を「復唱」しながら相手と「確認」することが重要なのです。
意見が対立したとき、この「復唱」と「確認」が自分の「アウトプット」だと決めれば、異なる意見を聞いている最中に感情的になってはいられません。最後まで話を聞き、内容と論理を理解しなければ、「復唱」することは不可能だからです。
相手の考えや意見を「正しく理解する」ことは「議論の条件」です。会議で反対意見を伴う「議論」に慣れていない日本人にとっては、大きなチャレンジといえます。しかしこの行動を習得する過程で、外国人に対するストレスが減るだけでなく、自分の意見を相手に「正しく理解させる」ための論理的思考力と表現力が鍛えられることに気づかされるはずです。

外国人との会議をマネージするための「3つのチャレンジ」

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第46回
外国人との会議をマネージするための「3つのチャレンジ」

◆「予備の時間」を確保する
通常、典型的な日本人は会議の開始時間が10時の場合、10時きっかりに会議を始めて本題に入ろうとしますが、外国人の場合はどうでしょうか?
外国人にも個人差、国民差があるため時間に厳格な人もいますが、やはり数は少ないです。一般的には、外国人リーダーが主催する会議が開始予定時間にきっかり始まることは、あまりないのが実情です。海外では、会議の開始時間に全員が集まることが習慣的でないことから、通常、優秀な外国人リーダーは時間をうまくコントロールする感覚を身に着けています。具体的には、90分の会議であれば5分から10分程度の「予備の時間」を確保しています。つまり、会議の本題は約80分で終わるように余裕をもって計画しているのです。
グローバル・ビジネスを進めるなかで、日本人が外国人との会議を主催する際には、このような時間感覚を身に着けていくことが大切です。典型的な日本人にとっては大きなチャレンジになりますが、イライラ防止のための得策でもあるのです。

◆待ち時間を温めるための「ネタ」「技」を身に着ける
では、5分から10分「待つ」ときに、会議の主催者であるリーダーはどのような行動をとればよいのでしょうか? その場で“静かに”待つのは30秒が限界でしょう。
リーダーは「待つ時間」を「場を温める時間」に転換させる必要があるのです。
たとえばリーダーが、すでに集まっている人たちに「雑談でもしながら待ちましょう」と言い、自発的に雑談してくれることを期待するのは、偶然に依存する行動なので適切ではありません。リーダー自ら「雑談を起こす」行動を取り、雑談が起きる必然性を高めなければいけません。リーダーは、会議の議題に沿った雑談の話題を提供する、あるいはそのような話題を引き出すための問いかけをする行動を取る必要があるのです。
また、会議が始まるときの少し凍りついた雰囲気を温めるために「アイスブレークゲーム」を用意しておくのも効果的です。会議の話題に沿ったゲームを活用することで、出席者をリラックスさせる状況を作りながら「待つ時間」を過ごすことができるのです。もちろん、本題の一部として活用することも可能です。たとえば、ある問題を解決する「チーム」を創るための会議であれば、「チーム」を仮想体感してもらう「アイスブレークゲーム」は効果的です。
つまりリーダーは、「待つ時間」をすでに集まっている人たちの「頭と心のウオームアップの時間」に転換させるための「ネタ」や「技」を身に着けることが大切なのです。そして自ら笑い、「アイス」を「ブレーク」するのです。

◆会議の時間配分を逆転させ「共有10%、議論90%」に
最後は、出席者の参加意識を高めるためのチャレンジです。特に日本企業の海外拠点での定例会議では重要です。通常、日本人が主催する会議は、「共有90%、議論10%」という時間配分です。共有の時間では、さまざまな部署からの参加者が持ち時間の中で報告や発表を行います。この共有の時間について日本人は大きな違和感を抱きませんが、実は、外国人はそうではないのです。
大企業で働く一般的な日本人は、終身雇用的慣行の下で「就社(=会社に入る)」しています。
入社と同時に、会社のさまざまな仕事に従事することが前提となり、雇用の安定と引き換えに、定期的に辞令を受けて異動を繰り返します。そのため、異なる部署の話を聞きながら知識や情報を増やすことに大きな違和感を抱かないのです。しかし、一般的に外国人は非終身雇用の下で「就職(=職を選んで就く)」しているので、原則、他部署の仕事に関心がなく、その結果、共有の時間には大きな違和感を抱くのです。
 外国人の参加意識を高めるためには、通常の会議での時間配分を逆転させ、「議論90%、共有10%」にすることが得策です。共有事項は原則、サーバー上で管理し、重要事項に絞ってリーダーや担当者が会議で共有する程度でよいです。議論90%に変えると、会議に必要な人は原則、「議論に必要な人」に絞られ、参加者の顔ぶれも自ずと変化するのです。

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