経営とビジネスの現場で、日本人の「思考」と「行動」に変化を起こす!「マネジメント実務」に変化を起こす!

コラム

「努力」の方程式

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

 

第14回

「努力」の方程式

 

「努力」とは合目的な「変化」を作ること

何か達成したい目標を描くことができて現状とのギャップに気づいたときや、身近な人や他人からフィードバックを受けて考え方や行動を変えようと思ったときに、人は「努力」という2文字を頭の中に浮かべます。そして、まず何から努力しようかと考え、そして決めたら、努力する行動をとりはじめるのです。

通常、努力することは決して簡単で楽なことではありません。なぜなら、努力の成果は「変化」であり、何事においても「変化」を作るプロセスでは様々な種類の障害が目前に立ちはだかるからです。その中でも自分の中に潜む心理的な抵抗感は最大のボトルネックなのです。ですから、中途半端な気持ちの努力では「変化」という果実を得ることができないのは当然のことです。また、自分としては一生懸命意識して努力していると言う人もいますがが、残念ながら、その多くの人は努力する行動の「質」に問題があるため、努力している「つもり」で終わってしまい、「変化」までたどり着くことができていないようです。

 

では、人は、努力する行動の「質」をどのように高めればよいのでしょうか?

まず、努力する行動=①準備する+②実践する+③振り返る、であると認識することが必要です。そして次に、これら3つの行動を1セットとして地道に何度も繰り返すことが大切なのです。

 

質が低い「努力」とは?

多文化環境の中に身を置く日本人が、ビジネスパーソン、ビジネスリーダーとして身につけなければいけない行動を例としてとりあげてみましょう。

「理由と合わせてYesかNoをはっきり表現する」「議論の場で臆することなく発言する」「自分と異なる意見や考えを感情的に拒否しない」は日本人が身につけなければいけない代表的な行動例です。つまり、これらの3つの行動は日本人にとって「苦手な行動」なのです。ですから、努力して「苦手」を「得意」にしていかなければいけません。少なくとも「苦手」という意識領域から脱出して、「得意」に近づくための「変化」を作っていかなければいけません。

しかし、努力している「つもり」の人の多くは、なかなか「変化」を作ることができず立ち止まっているようです。その理由は、次の2つのどちらかの行動をとっているからだと思います。

ひとつ目は、苦手な行動を克服する試練の場で、いつもより強く意識して頑張ってみるという行動です。この行動は方程式の②の行動です。例えば、「来月の○○会議の場で、中国人の(自分と)異なる意見や考えを感情的に拒否しないよう、強く意識して頑張ってみよう」ということです。いわゆる、ぶっつけ本番です。本当に「苦手な行動」はぶっつけ本番の頑張りを繰り返すだけで克服できるものではありません。

ふたつ目は、苦手な行動を克服するために、その対策を考えてから試練の場に臨んで頑張ってみる、そして、後で、自分なりに反省してみる、という行動です。この行動は方程式の②だけではなく、前後の①と③の行動も伴っているように一瞬聞こえますが、①と③の行動の「質」に問題があります。努力している「つもり」の人の多くは、実は、①と③を「頭の中」でおこなっています。実際のところ、意識して準備している時間や意識して振り返っている時間の中でハッと気づいたことは、その瞬間、「テロップ」のように頭の中で文字や音として流れます。しかし、スッと消えていくので、よほど衝撃的なこと以外は記憶として持ち続けることはとても難しいのです。「頭の中」で①と③をやっている人の多くは、自分の知力や記憶力を過信している人か、面倒くさがり屋の人でしょう。あるいは、自分の中で「変化」を作ることに戸惑いを感じている人でもあります。このような人は「気づき」を意識し続けることができないため、実態は、ぶっつけ本番の場で②を繰り返す行動をとっている人と大差がないのです。

 

質が高い「努力」とは?

本気で真剣に努力している人は「①準備する」「③振り返る」行動の質が高い人です。その上で、「②実践する」場を経験する頻度を高めている人、さらに、②の場を自ら作り引き寄せている人でもあります。つまり、努力する行動の質を決定づける「鍵」は①と③であり、②の場は努力したことを「試す」場であるという考え方が本質的なのです。

質が高い努力をしている人は①と③を「頭の中」ではなく、「ノート」を使って行動しています。「気づいたこと」を文字で表現することはある意味、自分自身と正面から向き合うことでもあります。実は、この素直さと勇気が「変化」を作る原動力になるのです。

さらに、一度書いた文字は、自分で消すかノートを失くさない限り、自然に消え去ることはありません。必要な時はいつでも自分の視界の中に呼び戻して、過去に「気づいたこと」と再会し確認することができるのです。自分の記憶をたどって過去に「気づいたこと」を思い出す苦労をしなくてよいので、時間の効率も高まります。また、この頻度を高めれば高めるほど、潜在意識に深く刻み込まれ、いわゆる「意識づけ」を強めることにもなります。

「気づいたこと」を頭の中で滞留させようとせず、ノートなど自分の外にある情報保存ツールに移動させておくと、「忘れてもよい」という安心感が生まれると同時に、頭の中の記憶容量に新しい気づきのための「空き容量」を作ることもできるので、気づきの「新陳代謝」がよくなり、「変化」を作るスピードが速まる効果も期待できるのです。

 

「隠れた努力」の意味は?

努力の方程式を構成する3つの行動のうち、②「実践する」行動は通常、人が観察できる行動です。しかし、①「準備する」と③「振り返る」行動は、本人が自分自身と向き合っている時間での行動が多いため、通常、人は観察しにくいものです。つまり、①と③の行動は、周囲の人から見えにくい環境でとっている行動のため、俗に「隠れた努力」と呼ばれるのです。

「隠れた努力」をしている人は、他人からのアドバイスやフィードバック、自己分析や自己反省をとおした「気づき」と素直に向き合い、それを整理し咀嚼します。そして、一度消化して自分で納得したら、次の本番の場面をイメージして仮想Q&Aやセルフリハーサルなどを繰り返し、本番で「試す」内容を入念に準備します。そして、徐々に湧いてくる自信が「試す」場を増やす勇気を生み、新しい「気づき」を得る好循環に繋がっていきます。結果的に、「努力」の質が高まり、着実に「変化」が起きていくことになります。

人の2倍3倍努力している人とは、このような「隠れた努力」をしている人のことであり、「頭」と「心」を同時に成長させ変化し続けている人なのです。

スポーツ選手、俳優、タレント、芸人などプロフェッショナルな職業についている人だけではなく、経営者、ビジネスパーソンでもプロ意識の高い人、「変化」にコミットしている人は、「隠れた努力」の時間を創ることを惜しまず日々前進しています。

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