経営とビジネスの現場で、日本人の「思考」と「行動」に変化を起こす!「マネジメント実務」に変化を起こす!

コラム

「不正」を防ぐ本質解

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

第6回

「不正」を防ぐ本質解

 

不正はどの国にもある

中国製の毒入り冷凍餃子に関わる報道が冷めて久しいですが、当時このひとつの事例から複数の類似事例の報道に連鎖し、その後、国産食品の保護の観点や圧力も加わったのでしょうか、気がつくと「中国製の食品は危険だ」という世論形成にまで発展したのは記憶に新しいです。本当に中国製の食品が危険であれば、13億の中国人や中国で働く多くの日本人は毎日何を食べればよいのでしょうか?このように考えると、日本の報道機関は少し行き過ぎた客観性に欠ける「過剰報道」をする傾向にあり、また、それを信じる日本人も「盲目的に思考」する傾向があると推察せざるをえません。

他方、海外で働く日本人駐在員と人事組織マネジメントについて話をしている中でも、「中国人やアジアの人は不正をするので困る」という言葉をよく耳にします。言外には、「日本人は(彼らがするような)不正はしない」という考えがあるのです。確かに、不正の種類の違いはあるかもしれません。しかし、日本でも政治家、公務員、民間企業を問わず、氷山の一角として判明している不正の事実だけでもたくさんあります。この点は中国やアジア諸国でも同じですので、「国籍」による違いはないといえます。さらに、成熟度が高い国でも成熟過程の国でも、「全ての人たち」ではなく、組織の中で不正に関わりやすい役職に就き、権限がある「特定の人たち」の中に不正をしている人たちが少なからずいるのです。しかも、このような人たちは証拠が見つからないように知恵を使う“頭のいい”人たちでもあります。

海外の「前提」、日本の「前提」

多くの海外先進諸国では、性悪説のもとで、「人は不正をしてもおかしくない」という「前提」が一般的ですから、ルールやチェック機能が強まります。従って、知恵が足りないと証拠が発見され不正はバレやすくなります。それでも、高度な知恵でルールの網目を抜けて不正を行う人たちはいるものです。

中国やアジアでは、社会的に成熟過程である一方で経済発展が著しく、「所得」に関する欲の高まりから不正が商習慣の一部になっている側面があります。不正に関わりやすい購買部門の役職に就き「できるならば不正をやりたい」と考える人が少なからずいるのが実態でしょう。また、権限を持つ特定の人が、敢えてチェック機能を強めず、不正を行いやすい環境整備をするというケースすらあります。しかし、中国やアジアでも旧態依然とした組織ではなく、先進的な経営に取り組んでいる企業では、他の先進諸国と同じく不正が起きにくいオペレーションが確率されつつあるのも事実なのです。

他方、日本の社会や組織では根本に「性善説」の考え方があるため、そもそも、不正が比較的起きやすい土壌があります。「人はきっと不正はしないだろう」という考え方が「前提」にあるため、オペレーションのプロセス、特にお金に関わる帳票類の流れや、チェック機能が弱くなる傾向があります。結果的に、不正が起きた場合の証拠も発見しにくくなります。「怪しいな?」と感じる事が起きた場合は、特定の人を疑う前に、全員に注意喚起を呼び掛けることで、集団として不正の行動に抑制がかかりやすくなるのは日本での特徴といえます。また残念なことですが、組織の中で権限を持つ特定の人たちがチェック機能の弱さを逆に“活かし”、「不正利益」を共有するネットワークを作り、不正をリードするというケースが容易に起きてしまうのも実情です。

日系企業がとるべき行動

①   チェック機能を「海外仕様」に切り替える

特に海外でオペレーションする日系企業は、不正の発生を最少化するためにマネジメントの方法を工夫して変えなければいけません。日本人が海外に赴任すると、「人はきっと不正はしないだろう」という日本版「前提」を海外に持ち込む人はさすがに少なく、むしろ、「人は不正をしてもおかしくない」という海外版「前提」に頭はすぐに切り替わります。しかし、多くの日系企業ではオペレーション上のチェック機能が依然として「日本仕様」のままになっています。心のどこかで「話せばわかるだろう」と感じ、日本的な「注意と指導」でもって不正を抑制しようとするのですが、そもそもオペレーションプロセスに「脇の甘さ」が残っていれば、抑えは利きにくくなっても仕方ありません。まずは、帳票類の整備を含めチェック機能を「海外仕様」に切り替えることが最も重要な仕事といえます。

②   「期待行動」を明確にする

日本人は物事を明確にせず「隙間を残しておく」ことに美徳や心地よさを感じる傾向があります。その結果、社員に期待する行動も「スピード」「チャレンジ」「チームワーク」などのカタカナや、「協調性」「責任感」「積極性」などの漢字のキーワードでとどめ、無意識のうちに「解釈の幅」を広げてしまっているケースが多く見られます。つまり、それぞれのキーワードが具体的な「場面行動(どのような場面のどのような行動なのか)」にブレークダウンされ明文化されているケースは、実際のところ大変少ないのです。

日本人同士でも同じキーワードについて解釈が異なることがありますので、外国人との解釈の違いははかり知れません。あるキーワードを聞いた時、日本人にとって“常識的”な解釈は必ずしも外国人の解釈と同じとはいえません。従って、まず、日本人マネジメントが社員に期待する行動を「キーワード」と「場面行動」で明文化し開示することが大切なのです。そして、会社が不正を全面禁止するスタンスをとるならば、「誠実」「公正」などの「キーワード」や、「リベートを要求していない」「リベートを受け取っていない」「リベートに関わる行為に加担していない」などの「場面行動」を盛り込み、不正行為を「明示的」に牽性することが求められます。

③   不正に向き合うのではなく、ポジティブな活動を継続的に展開する

証拠が少ない中で、“実行犯”と“共謀者”を捜索することに追われるのは、経営上決して得策ではありません。明確にした「期待行動」について、説明資料、ポスター、携帯用カードなどの補助ツールを作成し、それらを活用して社員に「継続的に」「根気よく」「丁寧に」コミュニケーションしていくことが重要なのです。また、模範となる行動をとった社員を表彰して「認知」し、「期待行動」に基づいた行動多面評価(匿名性を担保)を実施して個人レベルでの「気づき」を醸成し、さらに、「期待行動」の意味を「咀嚼」するための語り合いの場を定期的に設けるようなポジティブな活動を展開していくことが、健全な組織マネジメントを効果的に後押しします。このようなポジティブな活動こそが、「期待行動」に沿った新しい行動文化を創り、結果的に、不正をする人を組織の中から排除していく可能性を高めるのです。

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