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コラム

「世界仕様の謙虚さ」を身につける

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第49回
「世界仕様の謙虚さ」を身につける

日本の企業社会では、会議で報告書を説明する場面や、あるテーマについてプレゼンテーションする場面の冒頭で、「まだ完全ではありませんが・・・」「まだ詰め切れていない部分も多々ありますが・・・」といった「前置きのセリフ」を無意識に使う日本人が大変多いようです。

◆牽制と「甘えの心理」は議論回避につながる
オーディエンス(=聴衆)に年長者が多い場合、「前置きのセリフ」は、「日本的な謙虚さ」として好ましく受け取られます。また「謙虚でかわいいやつだ」「内容が少々粗くても大目に見てやろう」という聞き手の心理を誘います。「セリフ」を使わないと、聞き手に自信過剰、あるいは傲慢であるとの印象を与えてしまい、その結果、厳しい質問をされて叩かれてしまう可能性が高まるのです。したがって説明やプレゼンの内容に自信があっても、“牽制”として「セリフ」を使ってしまう日本人が多くなるのです。
しかしこの「セリフ」は自分の未熟さや準備不足に対する「許し」を請う表現でもあるので、「セリフ」を頻繁に使い続けていると、無意識のうちに「甘えの心理」が働き、考え抜く緊張感を緩めてしまうことになります。そうすると準備が中途半端になり、説明やプレゼンの論理性が低下します。結果、徐々に自信がなくなり、話し終えた後にオーディエンスから質問や意見を受けることを怖く感じ、議論を避けるようになってしまうのです。

◆自分の価値が下がる
他方、オーディエンスが外国人の場合にこの「セリフ」を使うと、彼らは「自分で完全だと思える状態にしてから話してほしい」「詰め切れていない話をわざわざ聞くのは、時間がもったいない」と感じてしまいます。にもかかわらず発表やプレゼンを続けると、最初に疑問を感じていたオーディエンスは「内容に粗が多いだろう」という前提に立って話を聞くので、嵐のごとく、必要以上に質問される可能性が高まります。場合によっては最後まで発表させてもらえず、途中で「出直し要請」をされ、退散せざるを得なくなることさえあるのです。
このように「日本的な謙虚さ」が裏目に出ると、自分の価値を下げてしまうことになります。いったん“想定外に”落ちてしまった自分の価値を挽回するために要する時間は、残念ながら無駄な時間といえます。

◆「世界仕様の謙虚さ」は質の高い議論を導く
このような状態に陥らないためにも、オーディエンスが外国人の場合は「日本的な謙虚さ」を表わす「セリフ」を使わず、「考え整理してまとめたことをお話しします」とさっと切り出し、堂々と自信をもって話せばよいのです。そして話の締めくくりに、「以上で発表は終わりですが、ご質問やご意見がありましたら、遠慮なくおっしゃってください」「異なる考えや見方もウエルカムです」「率直な議論につながればと思います」と“謙虚に”言えばよいのです。
そうすれば通常はその場で、もしくは後にメール上で率直な質問や意見が飛び交い、結果的に質が高い議論が起きるものです。「世界仕様の謙虚さ」とは、話を聞いてもらった後、質問だけでなく、異論・反論も含めて率直な意見を受け止め、オープンに議論する用意があることを相手に伝えることなのです。プレゼンの場だけではなくメールでも同様です。このような「世界仕様の謙虚さ」を表わすメールの英語表現は、“Please do not hesitate to contact me if you have any other ideas and thoughts”が一般的です。

日本人が外国人と対等に話し、仕事するためには、「世界仕様の謙虚さ」を身につけることが大切です。初めに「日本的な謙虚さ」を示すことによって必要以上の異論・反論を招いたり、議論を避けたりしてはいけません。伝えるべき内容の論理と構成をしっかりと考え抜き、自信をもって話した後、反対意見も賛成意見も想定した「オープンでフェアな議論をする謙虚さ」を身につけることが、日本人にとって今後の大きな課題であり、チャレンジともいえるでしょう。

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