経営とビジネスの現場で、日本人の「思考」と「行動」に変化を起こす!「マネジメント実務」に変化を起こす!

コラム

言葉の「壁」を乗り越える方法

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動
~思考と行動をアップグレードする~

第55回
外国人と仕事をするとき、英語や中国語などの外国語を駆使して意思疎通できることが望ましいのですが、多くの日本人ビジネスパーソンにとってあまり現実的ではありません。外国人と「誤解」や「軋轢」が少なく意思疎通でき、手戻りを少なく業務を前に進めることができる外国語の水準は、日常会話レベルという中途半端な水準ではなく、ビジネスレベル。正確に業務指示ができる、反対意見や賛成意見を伴う議論ができる、咄嗟の口論ができる――という水準です。
中学、高校、大学を通して約10年間英語を学んだ日本人のうち、どれだけの方がビジネスレベルの英語力を身につけているでしょうか。“ブロークン英語”でも意思疎通できるという「説」はありますが、実際は幻想です。この「説」を敢えて正当化するには、「相手の英語を正しく理解できるが、話すのは苦手。話す英語は“ブロークン”だが、内容は具体的・論理的に伝えることができる」――つまり、英語のリスニング力が高く、かつ日本語での論理的思考力が高いことが前提になります。実際のところ、このような日本人は大変少ないと言わざるを得ません。

方法①
ビジネスレベルの外国語習得を目指す
意思疎通には大きく2つの要素があります。「理解する」ことと「伝える」ことです。相手を理解するためには「読む・聞く」力が、相手に伝えるためには「書く・話す」力が必要です。ところが、日本の学校での英語教育は「理解する」ための「聞く」力、「伝える」ための「話す」力を育てず、文法や発音という品格(「読む」力、「書く」力)に重きを置いてきました。その結果、日本人の英語力は、「理解する」ことも「伝える」ことも片手落ちになっているのです。しかも皮肉なことに、日常における「聞く・話す」時間は、「読む・書く」時間よりも圧倒的に長いのが現実です。
つまりビジネスレベルの英語力を培うには、この「聞く・話す」力を磨かなければなりません。しかし言語的に母音中心である日本語はそもそも、子音中心の英語に比べて「音の幅」が狭いため、日本人が英語を聞くとき、「聞き取ることができない音」がたくさんあります。このディスアドバンテージを克服するには、とにかく脳の中に「英語の音」をたくさん溜めなければいけません。つまり英語を聞く時間を最長化することが重要です。しかもダラダラと定期的にではなく、短期集中的(=数年)に、です。
次に、脳内に溜めた音と同じ音の言葉を発する、音を組み合わせて複数の言葉として発する、あるいは文章として発する――という具合に、インプットした音をアウトプットしなければいけません。まさに日本人が、生まれてから日本語を習得するまでのプロセスを、短期集中的に疑似体験するイメージです。
この段階における脳は通常、まだ英語脳(=英語を受信して英語で発信する)ではなく、長年にわたって形成された日本語脳(=日本語を受信して日本語で発信する)です。そのため日頃、日本語で考えたり話したりしている内容以上のことは英語で話せません。
したがって、日本語で明日誰かに話したいことなどを、頻繁に英語で表現することが効果的です。お勧めの方法は、ICレコーダーに自分の発信したい内容を日本語で録音すること。仕事上のことだけでなく、喜怒哀楽に関わることも対象にすると気が楽です。そして、録音した日本語を何度も聞きながら英語に置き換えて話したり、書いたりしてみましょう。自分の日本語がいかに英語に翻訳しにくいかに気づくはずです。これを繰り返すと、自分の日本語も“正常化”させることができるので一石二鳥です。

方法②
外国語に自信がなければ「通訳」を使う
 日本の英語教育がもたらした罪といえますが、方法①で成果が上がる日本人は、残念ながら少数でしょう。他の外国語ではなおさらです。こうした現状で〈英語ができる日本人=グローバル人材〉と短絡的に定義することは現実的でありません。
英語ができなくてもグローバルで「仕事ができる」日本人はたくさんいます。言語的実力を「過信」せず、「仕事の成果を上げる手段」として言葉の問題を解決することが大切です。つまり、中途半端な外国語で仕事するリスクを回避し、通訳を使って仕事を前に進める「勇気」と「謙虚さ」を持つことが現実解といえます。通訳を使うことは手段にすぎず、「恥ずかしい」ことではありません。が、通訳の「質」にはこだわる必要があります。
第44回で取り上げたテーマのとおり、日本語での思考と行動を世界仕様に変化させる努力をする一方、言語の「壁」を、無理せず通訳を使って乗り越えていけば、外国人との仕事はスムーズに進むはずです。

コメントは受け付けていません。

top