経営とビジネスの現場で、日本人の「思考」と「行動」に変化を起こす!「マネジメント実務」に変化を起こす!

コラム

「異なる意見」をマネジメントする方法

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

 

第15回

「異なる意見」をマネジメントする方法

 

「異なる意見を受け入れる」とは「相手に折れる」こと?

外国人同士と比べて日本人同士では、日常的に異なる意見が“表だって”対立する頻度はかなり低いです。しかし、稀に対立すると、双方が第3者から「異なる意見を受け入れなさい!」というなんとも“不可解な”アドバイスをもらうことになります。

自分なりにしっかり考えをまとめて議論に参加した時、そこで部下や同僚から異なる意見・考え・アイデアを提示され理解を求められると、国籍を問わず人はなかなか冷静に対応できないものです。特に日本人はこのような「場面」の経験が少ないため、無意識に湧いてしまうネガティブな拒否感情を冷静に処理する方法に疎くなってしまっています。

その結果、「意見」が対立しているだけなのに、人と人の「感情の対立」や「感情のもつれ」を避けようとして、どちらかが“状況”を見て「折れる」行動をとる傾向が高くなります。”パワーバランス”としては、部下が「折れる」、部下に「折れさせる」ことが多くなるのが実態でしょう。

また、形は変化しつつあるものの終身雇用が一般的な慣行となっている日本の企業社会では、好むと好まざるに関わらず、人と人の「長い付き合い」が前提となります。この前提が「どちらかが折れて人間関係を維持する」行動習慣を心理的に後押ししているとも十分考えられるのです。

 

一方で海外では、そもそも「各個人の意見は異なることが当たり前」であり、異なる意見が対立することは日常茶飯事です。そのため、頑固で感情的な外国人を除けば、「異なる意見を受け入れなさい!」というアドバイスをもらうことは少ないでしょう。意見が対立すれば、お互いに異なる意見を感情的に拒否するのではなく、まず、双方の意見を冷静に正しく理解し合うことが鉄則です。その結果、どちらかの意見に納得できるかもしれませんし、お互いがフェアーと感じ納得できる新しい意見を一緒に創ることができるかもしれないのです。

海外には終身雇用をベースとした「長い付き合い」という前提や、そこから派生する「気遣い」による「折れる」あるいは「我慢して飲み込む」というような行動習慣はほとんどありません。

従って、日本企業の海外拠点で日本人上司の意見が外国人部下の意見と対立する時、日本で期待できる”パワーバランス”が機能する確率は自ずと低くなってしまいます。その結果、日本人上司はストレスを溜めてイライラするか、敢えて部下の意見を聞こうとせず業務命令のみを繰り返し、外国人部下との人間関係が徐々に疎遠になってしまうことが多く見られます。

 

では、意見が対立する場面経験が少ない日本人は、どのような方法で異なる意見をマネジメントすればよいのでしょうか?

「異なる意見を最後まで聞く」は本質的な解決策ではない!

異なる意見を感情的に拒否しがちな人は「異なる意見を最後まで聞きなさい!」というアドバイスを受けたことがあると思います。アドバイスに従い、辛抱して頑張った人も多くいると思いますが、その結果、お互いの意見を冷静に正しく理解し合えたと実感した人は少ないはずです。

海外拠点で外国人部下の話や報告を聞いている時、その内容が「期待に反している」「自分の考えに合っていない」「間違っている」と感じた瞬間、首を横に振りながら、「違うだろう!」「こうでしょ!」と言って相手の話を途中で遮る日本人上司は実際のところ少なくありません。

そこで、先のアドバイスを受け、相手の話を最後まで我慢して聞いた経験がある人は案外多いと思います。しかし、相手の話を聞いている途中で「そうじゃない!」と感じた瞬間以降は、相手の言葉は「音」として聞こえてはいるのですが、同時に、「音」が鳴り止んだらどういう表現で説き伏せようかと頭の中で考え始めていることが多いのです。つまり、「音」を聞きながら、伝える内容を考える脳がフル回転し、相手の話を理解する脳が停止している状態になっているのです。表情は、ポーカーフェース、強張った表情、イライラした表情、微笑みを創った表情など人により様々です。興味深いのは、相手の言葉の「音」を聞き終わると、ほとんどの人が「あなたの言っていることはわかりますが・・・」「あなたの言わんとしていることはわからないわけではありませんが・・・」、あるいは、話の内容とは関係なく「あなたの“気持ち”はわかりますが・・・」というような決まり文句を“緩衝材”として使い、その後は、相手の話を全否定し、「でも、こうでしょ!」と言っているのです。理解する脳が途中で停止しているので、相手の話を理解できているはずはありません。つまり、「異なる意見を最後まで聞く」行為だけでは、相手の意見を「理解する」ことはほぼ不可能なのです。

 

「異なる意見を正しく理解する」ための効果的な方法

結論は、相手の話を聞き終わってから、相手の異なる意見を「整理して復唱する」ことです。その際には、できるだけ相手が使った言葉を使うことと、自分の勝手解釈を加えないことがポイントです。相手が使っている「言葉の意味」が理解できない場合や、相手の意見の「理由」がよく理解できない場合は、相手に説明を求め、それを理解してから、整理して復唱することが鉄則です。

具体的には、「貴方の意見は・・・・・なのですね?」「その理由は・・・・・なのですね?」「この理解で正しいですか?」と聞いて確認する行動を身につけることが重要なのです。

意見が対立した時、この確認する行動が自分の「アウトプット」だと決めれば、異なる意見を聞きながら感情的になってはいられませんし、当然のことながら、最後まで話を聞かなくてはいけなくなります。相手の意見を理解していなければ、それを「復唱」することは不可能なのです。

この行動をとった後、相手が「その理解で正しいです」と言えば、正しく理解できたことになりますし、相手も、今までと違って自分の意見を正しく理解してもらえて心地よい気持ちになります。まず、ここの状態に到達することが大切なのです。さもなければ、その後のフェアーな議論は通常ありえないのです。

一方で、「ちょっと違います」という反応が返ってきた場合は、理解が間違っていた、あるいは、相手の表現が適切でなかったかのどちらかでしょう。ただ、残念ですが、この場合は、「そうですか・・・では、ちょっと違う部分についてもう一度話してくれますか?」と聞き直し、話してもらった後にもう一度、整理して復唱する必要があります。

全てのケースとまでは言いませんが、このような行動をできるだけ回数多く繰り返す努力がとても大切です。この努力の過程で、そもそも意見の対立に不慣れな日本人上司は異なる意見を正しく理解するための行動を身につけることができるようになり、同時に、外国人部下もより適切な言葉でわかりやすく表現する行動を身につけることができるようになっていきます。さらに、コミュニケーションのキャッチボールの中で、日本人上司が相手と異なる意見を伝える際に、解釈の幅が狭い(=低コンテクストの)表現ができるようにもなり、副次的な効果は計り知れません。

「努力」の方程式

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

 

第14回

「努力」の方程式

 

「努力」とは合目的な「変化」を作ること

何か達成したい目標を描くことができて現状とのギャップに気づいたときや、身近な人や他人からフィードバックを受けて考え方や行動を変えようと思ったときに、人は「努力」という2文字を頭の中に浮かべます。そして、まず何から努力しようかと考え、そして決めたら、努力する行動をとりはじめるのです。

通常、努力することは決して簡単で楽なことではありません。なぜなら、努力の成果は「変化」であり、何事においても「変化」を作るプロセスでは様々な種類の障害が目前に立ちはだかるからです。その中でも自分の中に潜む心理的な抵抗感は最大のボトルネックなのです。ですから、中途半端な気持ちの努力では「変化」という果実を得ることができないのは当然のことです。また、自分としては一生懸命意識して努力していると言う人もいますがが、残念ながら、その多くの人は努力する行動の「質」に問題があるため、努力している「つもり」で終わってしまい、「変化」までたどり着くことができていないようです。

 

では、人は、努力する行動の「質」をどのように高めればよいのでしょうか?

まず、努力する行動=①準備する+②実践する+③振り返る、であると認識することが必要です。そして次に、これら3つの行動を1セットとして地道に何度も繰り返すことが大切なのです。

 

質が低い「努力」とは?

多文化環境の中に身を置く日本人が、ビジネスパーソン、ビジネスリーダーとして身につけなければいけない行動を例としてとりあげてみましょう。

「理由と合わせてYesかNoをはっきり表現する」「議論の場で臆することなく発言する」「自分と異なる意見や考えを感情的に拒否しない」は日本人が身につけなければいけない代表的な行動例です。つまり、これらの3つの行動は日本人にとって「苦手な行動」なのです。ですから、努力して「苦手」を「得意」にしていかなければいけません。少なくとも「苦手」という意識領域から脱出して、「得意」に近づくための「変化」を作っていかなければいけません。

しかし、努力している「つもり」の人の多くは、なかなか「変化」を作ることができず立ち止まっているようです。その理由は、次の2つのどちらかの行動をとっているからだと思います。

ひとつ目は、苦手な行動を克服する試練の場で、いつもより強く意識して頑張ってみるという行動です。この行動は方程式の②の行動です。例えば、「来月の○○会議の場で、中国人の(自分と)異なる意見や考えを感情的に拒否しないよう、強く意識して頑張ってみよう」ということです。いわゆる、ぶっつけ本番です。本当に「苦手な行動」はぶっつけ本番の頑張りを繰り返すだけで克服できるものではありません。

ふたつ目は、苦手な行動を克服するために、その対策を考えてから試練の場に臨んで頑張ってみる、そして、後で、自分なりに反省してみる、という行動です。この行動は方程式の②だけではなく、前後の①と③の行動も伴っているように一瞬聞こえますが、①と③の行動の「質」に問題があります。努力している「つもり」の人の多くは、実は、①と③を「頭の中」でおこなっています。実際のところ、意識して準備している時間や意識して振り返っている時間の中でハッと気づいたことは、その瞬間、「テロップ」のように頭の中で文字や音として流れます。しかし、スッと消えていくので、よほど衝撃的なこと以外は記憶として持ち続けることはとても難しいのです。「頭の中」で①と③をやっている人の多くは、自分の知力や記憶力を過信している人か、面倒くさがり屋の人でしょう。あるいは、自分の中で「変化」を作ることに戸惑いを感じている人でもあります。このような人は「気づき」を意識し続けることができないため、実態は、ぶっつけ本番の場で②を繰り返す行動をとっている人と大差がないのです。

 

質が高い「努力」とは?

本気で真剣に努力している人は「①準備する」「③振り返る」行動の質が高い人です。その上で、「②実践する」場を経験する頻度を高めている人、さらに、②の場を自ら作り引き寄せている人でもあります。つまり、努力する行動の質を決定づける「鍵」は①と③であり、②の場は努力したことを「試す」場であるという考え方が本質的なのです。

質が高い努力をしている人は①と③を「頭の中」ではなく、「ノート」を使って行動しています。「気づいたこと」を文字で表現することはある意味、自分自身と正面から向き合うことでもあります。実は、この素直さと勇気が「変化」を作る原動力になるのです。

さらに、一度書いた文字は、自分で消すかノートを失くさない限り、自然に消え去ることはありません。必要な時はいつでも自分の視界の中に呼び戻して、過去に「気づいたこと」と再会し確認することができるのです。自分の記憶をたどって過去に「気づいたこと」を思い出す苦労をしなくてよいので、時間の効率も高まります。また、この頻度を高めれば高めるほど、潜在意識に深く刻み込まれ、いわゆる「意識づけ」を強めることにもなります。

「気づいたこと」を頭の中で滞留させようとせず、ノートなど自分の外にある情報保存ツールに移動させておくと、「忘れてもよい」という安心感が生まれると同時に、頭の中の記憶容量に新しい気づきのための「空き容量」を作ることもできるので、気づきの「新陳代謝」がよくなり、「変化」を作るスピードが速まる効果も期待できるのです。

 

「隠れた努力」の意味は?

努力の方程式を構成する3つの行動のうち、②「実践する」行動は通常、人が観察できる行動です。しかし、①「準備する」と③「振り返る」行動は、本人が自分自身と向き合っている時間での行動が多いため、通常、人は観察しにくいものです。つまり、①と③の行動は、周囲の人から見えにくい環境でとっている行動のため、俗に「隠れた努力」と呼ばれるのです。

「隠れた努力」をしている人は、他人からのアドバイスやフィードバック、自己分析や自己反省をとおした「気づき」と素直に向き合い、それを整理し咀嚼します。そして、一度消化して自分で納得したら、次の本番の場面をイメージして仮想Q&Aやセルフリハーサルなどを繰り返し、本番で「試す」内容を入念に準備します。そして、徐々に湧いてくる自信が「試す」場を増やす勇気を生み、新しい「気づき」を得る好循環に繋がっていきます。結果的に、「努力」の質が高まり、着実に「変化」が起きていくことになります。

人の2倍3倍努力している人とは、このような「隠れた努力」をしている人のことであり、「頭」と「心」を同時に成長させ変化し続けている人なのです。

スポーツ選手、俳優、タレント、芸人などプロフェッショナルな職業についている人だけではなく、経営者、ビジネスパーソンでもプロ意識の高い人、「変化」にコミットしている人は、「隠れた努力」の時間を創ることを惜しまず日々前進しています。

3種類の「メモ」「ノート」で思考と行動をアップグレードさせる!

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

第13回

3種類の「メモ」「ノート」で思考と行動をアップグレードさせる!

 

「メモ」「ノート」をとる行動は、問題解決や自己成長に欠かせない

国籍を問わずどの会社でも、「メモをとる」「ノートをとる」ことは大切な行動として認識されています。一般的には、日々仕事をする中で、人から何かを教わるとき、人から指示を受けるとき、大切な話を聞くときに、「メモ」や「ノート」をとることが重要だと認識されているのです。

私はコンサルタントとして過去約15年間、様々なクライアント企業で人と組織に関わる問題解決を支援してきていますが、支援を開始する際には、「メモ」「ノート」をとる行動文化が定着している会社かどうかを最初に確認するようにしています。なぜなら、支援方法に大きな影響を与える要素だからです。結論を言えば、この行動文化が定着している会社では問題解決の質が高く、そのスピードも速く、さらに、合意形成プロセスの説明性が高くなる傾向があります。一方で、そうでない会社では、伝えた!聞いていない!の押し問答や勝手解釈などから仕事の手戻りや停滞が起きがちなので、問題解決のスピードは遅くなりますし、仮に問題解決できたとしても偶発性が高く、組織学習にはなかなか及ばないのです。

また、「メモ」「ノート」をとる行動文化の定着度合いに関わらず、どんな会社でも、「メモ」「ノート」をとる行動習慣が弱い人はいます。「手を動かさなければいけないから面倒くさい」「頭の中でおおよそ記憶できるから聞いておけばいい」というような心理が通常働くようです。あるいは、「自分にとっては大切ではないこと」と勝手に決めつけて相手の話を聞き流している場合すらあります。残念なことに、「メモ」「ノート」をとらない行動は、「理解する」「学ぶ」「気づく」機会をその都度自ら放棄していることになり、結果的に「自己成長」スピードが減速してしまうのです。

さて、一般的に使われる「メモをとる」「ノートをとる」という行動は、その「目的」によって3種類に分けることができます。

3つの目的

①   「理解する」ために「メモ」「ノート」をとる!

この行動が必要になる場面は「人の話を聞いているとき」ですので、一般的に使われる「メモをとる」「ノートをとる」という行動はこの目的のための行動である場合が多いです。

相手の話を「理解する」ということは「相手の思考をトレース(=追跡)する」ということを意味します。具体的には、相手が伝えようとしていることを理解するために、相手の話しの「論理」と「構成」を手元のノート上で見える状態にする作業です。この作業をとおしてこそはじめて、質問の内容や観点が見えてくるのです。しかし、この作業を強く意識せず相手の話す「言葉」のみを一生懸命メモとして書いたらどうなるでしょうか?結果的に手元のノートにはたくさん「文字」が残りますが、後でそれを読み返しても、相手の話しの「論理」や「構成」はおろか、話しの内容すら思いだすことができないメモ(=再現性の低いメモ)になってしまいます。これでは相手の話を聞きながらせっかくメモをとっても「理解する」という目的は達成できません。「相手の思考をトレースする」ためには「考えながら」「整理しながら」相手の話を聞きメモをとる必要があります。逆に言えば、伝える側は聞き手が自分の思考をトレースしやすいように、話しの「論理」と「構成」を明確にして話すことが必要になるのです。

②   「伝える」ために「メモ」「ノート」をとる!

この行動が必要になる場面は「人に話をする前」です。国籍を問わず、この行動がきちんと習慣化されている人は少ないのが実情です。人は相手に何かを伝えたい、理解してもらいたいときに、頭の中でその内容のイメージが湧いたらすぐに直接対話や電話で話したり、メールを送りたくなるものです。あるいは、伝える内容のイメージが曖昧なまま伝えはじめ、伝えながら伝える内容を徐々に明確にしていく行動をとりがちです。この場合、相手の話しの「論理」と「構成」が不明確なことが多いため、聞き手は理解するのにとても時間がかかりますし、お互いにとっても効率が大変悪く、ストレスの溜まるコミュニケーションになる可能性が高まります。

特に日本人は、他国の人と比べて同質性が高いため、そもそも「お互いがわかり合えて当然」という考え方のもとで日常的にコミュニケーションしていることが多いです。そして、言語的特性も加わり、結果的に、「解釈の幅が広い曖昧な表現(=高コンテクスト)」を使う傾向が高くなります。さらに、日本では家庭教育、学校教育の中で自分の考えや意見を明確に表現することが十分訓練されていないため、論理的に具体的に、わかりやすい言葉で話を組み立てることが苦手な日本人が多いのも事実です。

従って、外国人に対して少し複雑なことを理解してもらいたいときや、日本人にとって当たり前のことを説明するときなどには、「相手に話をする前に」伝えたい内容をノート上で整理し、「論理」と「構成」を明確にする行動習慣を身につける努力をしなければ、通常、外国人には伝えたいことがなかなか正確に伝わらないものです。

残念なことですが、日本企業の海外拠点で逐語通訳を介して現地社員にコミュニケーションするとき、通訳が日本人社員の話す日本語を正確に理解できず、推測して意訳せざるを得ないケースは実は大変多いのです。自分の学歴や知力を過信せず、「メモ」「ノート」で伝える内容を整理することは日本人として思考と行動をアップグレードする上で大変有益なことですが、日常的に意識しなければなかなか習慣化できない行動でもあります。

③   「気づきを深める」ために「メモ」「ノート」をとる!

この行動が必要になる場面は「自分自身を振り返るとき」、つまり、自分と素直に向き合うときです。この場面や時間はかなり意識しなければ創ることができませんし、創り続けるためには強い動機をもつ必要があります。そのためには、自分の目標や、目標を達成するための努力の内容、解決したい内容などを明確にしなければいけません。そうすることによってはじめて、自分と素直に向き合う時間に自分にとっての「意味」を見出すことができるのです。

自分自身を素直に振り返ると、人はさまざまな「気づき」を得ます。それをノートに書き留めておくと、そのノートを捨てたり失くしたりしない限り「文字」として残りますので、必要なときにいつでも自分の視界に呼び戻すことができます。その繰り返しが意識を強めて「気づきを深める」ことに繋がるのです。その結果、潜在意識の中で「気づき」が何度も蓄積されていくことになるため、大切な「気づき」を忘れてしまうことは大変少なくなります。必要な場面で「気づき」を引き出しやすくなり、さらに次の新しい「気づき」に繋がり、その結果、「気づきを深める」連鎖が定着することになります。

スポーツ界では、野村克也氏(元楽天監督)の「野村ノート」や本田圭佑氏(サッカー日本代表)の「練習日誌」が有名ですが、ビジネスパーソンや経営者でも振り返りのための「自分ノート(仮称)」を活用している人は少なくありません。振り返りの時間は、すべての人が経験する日常の実務時間と異なり、いわゆる「隠れた努力をする」「自分を深める」時間に相当します。実務力だけでなく人間力という点でも思考と行動をアップグレードできる大変重要な時間なのです。知力、要領、運だけでなく、「素直さ」を持ち備えた人は、人間味があり、使う言葉にも重みや深みが伴い説得力が高まるものなのです。

「目標」と「努力」をマネジメントする!

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

第12回

「目標」と「努力」をマネジメントする!

 

目標は「もつ」のではなく「書く」のがよい

「目標をもっている」人は多いかもしれませんが、「目標を書いている」人は実は少ないのが現実でしょう。人生、キャリア、職場の業務に関わらず、達成したい状態イメージを「書いて表現する」とその目標の実現性は高まります。具体的で、シンプルな言葉であればなおさらです。さらに、書いた目標は日常的に自分の視界に入る場所で保管し、自分にとって「見える状態」を作っておくと効果的なのです。なぜなら、物理的に自分の外に保存されている「目標」という情報が、頻繁に見る視覚的な行為の繰り返しをとおして潜在意識の領域に入り込み保存され、強く「意識づけ」されるからです。目標を書かずに「もっている」人は、頭の中で目標を記憶として保存している人です。ただ、頭の中の記憶は持続性に欠けますので一時的な「意識づけ」は可能でも、「意識している」状態を続けることは難しいのです。一般的に人が「意識しています」という表現を使う時は「頭の中の記憶として保存しています」ということを意味していることが多く、記憶のみに依存するため、「意識している」状態は不安定にならざるをえませんし、結果的には「意識できていない」ことの方が多いといえます。一方で、目標を書いて、頻繁に見るようにすれば、書いた目標は消さない限り残りますし、視覚に訴えることで潜在意識の領域に深く植え付けられることになり、「意識している」状態の安定性は自ずと高まるのです。

そもそも、目標とは自分の「欲望」や「意思」を明確にすること

人は生まれてからの成長過程の様々な段階で目標を考え、その達成に向けて努力しています。スポーツ、学業、恋愛、ビジネス、自己成長など目標を設定するテーマも様々です。そもそも目標を立てるということは、「志」や「目的意識」に基づいて「こうなりたい」「こうしたい」「こういうスキルを身につけたい」「ここまで達成したい」などの「欲望」や「意思」を自分で明確に描き、言葉で表現することなのです。人は自分の「本能」と距離が近い目標であれば、それを強く意識し、その達成に向けて本気になりやすいです。また、この場合、敢えて目標を書いて表現しなくても潜在意識の領域で保存し続けることができる可能性が高まります。しかし、「本能」との距離が遠くなる目標はそうではありません。会社組織の中で毎年設定する目標や上司から要請される成長目標などはまさにその類の目標になります。自分の欲望や意思だけでなく、上司の考えや期待が多く入り込んでくるからです。しかし、起業ではなく、組織のメンバーとして働いている限り、組織人として上司としっかり議論した上で納得するプロセスを踏まなければいけないのは、国籍を問わず必要なことなのです。

「自分」に立脚する行動を強める

特に、終身雇用という労働慣行のもとで「会社のため」「組織のため」という大義名分を優先させ自己を犠牲にする傾向が強い日本人は、職場における「目標」にはあまり意味を見いだせないものです。なぜなら、そこには本質的に「自分のため」という意味合いが薄れてしまっているからです。仮に目標が達成できなくても全て自分の責任であるとは感じず、心のどこかで、会社や上司に責任を転嫁している人が少なからずいるのが実態でしょう。その背景には、目標設定の際に、上司に自分の考えや意思を明確に伝えると「自己中心な社員」と見なされてしまうリスクもあり、結果的に、上司との議論が不完全燃焼になってしまうことがあります。さらには、就社意識のもと、「自分のため」を封印していることから、自分の考えや意思を明確に表現するための言葉や行動習慣をそもそも失ってしまっていることも十分考えられます。

他方、欧米諸国はさることながら、成長が著しい中国やアジアの人は上昇志向が強く、基本的に自分のために就職し、自分の市場価値を高めるために仕事をしています。従って、目標設定の場面でも、原則、「自分」に立脚した考え方で行動します。場合によっては、自己中心でわがままな行動にもなりえますが、優秀な人材は「自分」に強く立脚しつつ、「上司」の考えを聞き出しながら、議論をとおして、自分を上司に理解させ自分も納得するという行動をとります。この点、「会社」や「上司」に強く立脚し、「自分」の考えや意思を表現することを躊躇し遠慮する日本人の行動特性とは大きく異なります。日本人が外国人上司と仕事をする時、外国人部下をマネージする時には、自然体に回帰して、自分が感じることや考えることを率直に表現し、自分の欲望や意思をぶつけ合うことを避けない行動をとることが大切です。

「努力」は3つの行動のセットのこと

目標を明確に記述して見える状態にすれば、次はその達成に向けて努力しなければいけません。特に、自己成長目標の場合、努力する行動の質を高める必要があります。例えば、「わかりやすい言葉で具体的に表現する」という行動目標の場合、この行動をとる場面でとにかく繰り返し「実践する(=やってみる)」だけでは、本当の意味では努力していることになりません。ある程度の勇気と覚悟があれば誰でも「実践する」ことはできます。努力とは「実践する」行動の前後の行動を併せてとってはじめて効果が高まるのです。実践する前に「準備する」行動をとり、実践した後に「振り返る」行動をとることが重要です。さらに、この前後の2つの行動は強く意識してとる必要があります。具体的には、まず、「意識的に準備したこと」を素直にノートに書きとめ、そのうえで、実践し、最後に、「振り返って気づいたこと」、例えば、「準備したとおりにできたかどうか」「できなかった理由」「次はどうしようと決めたのか」などについてできるだけ率直にノートに書きとめることが大切なのです。世の中の多くの人は、実践の前後のこの2つの行動を「頭の中で反芻する形で」とっていると思いますが、所詮、これは「記憶」の領域を出ない行動ですので「意識している」状態の安定性は残念ながら低くなります。「意識的に準備したこと」と「振り返って気づいたこと」について肩ひじを張らずに感じるままにノートに書き、それを、日常的に頻繁に見ることをとおして潜在意識の領域に深く植え付けていくことこそが、「実践する行動」のレベルを引き上げていくことに繋がります。本物の努力の方程式は、「努力」=「準備」+「実践」+「振り返り」となります。ノートのメモを伴ったこの3つの行動セットを繰り返すことが、努力する行動の質を高め、目標を意識する状態を持続させることを可能にするのです。

部門間連携の「求心力」を仕掛ける

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

第11回

部門間連携の「求心力」を仕掛ける

 

「違い」を土台に経営上の「求心力」を創る

雇用慣行は人の思考と行動に大きな影響を与えます。日本社会での終身雇用的な慣行は組織で働く人の意識を「就社」へ、そして、行動原則を「会社のため」「部門のため」に導きます。一方で、諸外国の非終身雇用的な慣行は人の意識を「就職」へ、行動原則を「自分のため」に導くことになります。例えば、中国の日系企業(特に生産拠点)では、上層部は日本人、その下に中国人、という人材配置が一般的です。そのため、ひとつの組織の中に2つの対極的な意識と行動原則が共存することになり、この2つはなかなか相容れない関係として対立し続けることになるのです。

日本企業は国内の労働コストや経済上のリスクを回避するために中国でモノを生産し、輸出、内販することで多くの経済的メリットを享受しています。また、企業としても生きのびるための「場」を得ていますので中国社会に感謝するのが筋です。震災後は日本での地震・原発リスクを回避するために中国シフトがさらに進んでいるようですのでなおさらといえます。

他方、中国も日本企業が中国でオペレーションすることで消費が高まり、社会が成長し、さらに、税収が増えるわけですから日本企業に感謝するのが筋でしょう。このような経済的な補完関係を考えますと、目線を合わせて相手を尊重し、対等な関係を作る行動が大切だと思います。

そのための経営上の重要な行動は、お互いの「違い」について正しい認識ができる状態を作り、その土台の上で、「違い」を超えて幹部社員が一枚岩になることができる「求心力」を作ることなのです。多文化度合いの高い海外拠点はもちろんのこと、程度の差こそあるものの、多様性が高まりつつある日本本社や国内拠点でもこの行動は経営上必須であると言ってもよいでしょう。経営を実行するプロセスでは様々な効果的な「求心力」がありえますが、実際のところ、「会社業績をよくするための部門間連携強化」は多くの企業に共通する課題認識ですので、これを「求心力」にすることは大変意義深いことだと思います。部門間連携の難易度が構造的に高まる海外拠点ではなおさらでしょう。

「かけ声」だけでは前進しない!

部門間連携強化を「求心力」として機能させるためには、まず、経営戦略上の重要課題として正式に位置付け、社内で開示することが大切です。そうすることで事実上、経営者が社内で宣言したことになりますので、自らにプレッシャーをかけ、結果的に、その後の行動が起きやすくなります。実際のところ、経営層や幹部社員が「部門を超えてしっかりと協力し合おう!」「会社のため!という意識をもって協力し合おう!」といった具合に「かけ声」をかけているだけでは日本人同士でもなかなか前進しません。「やれ!」というような命令的な圧力がかかれば、日常の忙しさの中で意識の外に押し出されていた「会社のため」という大義名分をふと思い出し、たとえ気乗りしなくても行動が起きるかもしれません。しかし、これは部門間連携が強化されている状態とは程遠いものです。「会社のため」という大義名分が成り立ちやすい日本人同士でも現実は日常業務に追われますので、「かけ声」を耳にして頭の中でぼんやり意識するだけでは、自発的に行動しにくいものなのです。

お互いに「思考を見せる」活動を!

いま目の前で求められている連携行動がなぜ必要なのか?つまり、「背景」「現状の問題」、そして、それを解決する「目的」や「目標」について十分理解できていない時には、人は質のよい行動をとることはできません。質のよい部門間連携行動を組織の中で定着させていくためには、「現状」「ゴール」についての相互確認はもちろんのこと、それ以上に、連携して進めなければいけない仕事に関わる人たちの「思考」を見える状態にすることが大切なのです。上層部、ホワイトカラー、上工程の人たちの「思考」は概して見えにくいものです。相手の「思考」が見えにくいと人は不安を抱き、自分の行動にブレーキをかけてしまいます。また、お互いの「思考」が見えにくい中で物事を前進させるためには「推測」が必要になってしまいます。そうすると、「推測」しているうちに人はその時間自体が「ムダ」で「意味がない」と感じはじめ、結果的に面倒くさくなってしまうものなのです。

一方で、人は相手の「思考」が見えると、「そういうことを考えていたのですね!」「そういう段取りだったのですね!」「それくらいのタイムフレームなのですね!だったら・・・」という具合に反応します。相手が考えている内容、論理構成、時間軸などが「見える」とスッキリした感じになり、その瞬間、意識も他人事から自分事に変わり、さらに質問して確認する、協力依頼されていることを約束するなど、次の行動がとりやすくなるのです。つまり、自分が「頭の中を見せる」と相手は速く理解して行動にアクセルがかかる可能性が高まるのです。

活動展開のための「ルール」と「雰囲気」を作る!

私はクライアント企業での多文化マネジメント支援の一環で、部門間連携強化のための「思考段取りの可視化セッション展開」を支援していますが、このような活動はそもそも「思考」が見えにくい上層部から始めることがとても重要です。新しいよい行動はまず上層部から身につけていくことが組織マネジメント上の鉄則だからです。また、セッションを展開していく中では次のようないくつかの「グラウンドルール(=参加者全員が守るルール)」を作って確認し、これらの行動の「源」は参加者ひとりひとりであることを強く意識づけておくこともとても大切です。

①    自分の意見を率直に(=隠さず、飲み込まず)発言する。

②    「質問」「意見・感想」「提案」のどれかをはっきりさせてから発言する。

③    相手の意見に「反対」なのか「賛成」なのか立場を明確にする。

④    行動を約束する時は、「やろうと思います」ではなく「やります」という断定的な表現をする。

⑤    メモをとる

ルールを守らない人にその場で与える「罰則」も決めておくと遊び心も手伝ってセッションの雰囲気が和みます。

「部門間連携強化」という経営上の「求心力」の効果を最大化するためには、その重要性を経営戦略の中で明確にし、お互いに「思考を見せる」活動を展開し、その上で、日常的にしっかりと「声かけ」がされるような状態を作ってくことが必要です。そうすることによって、結果的に、部門間だけでなく部門内も含め全社的に、そして国籍を問わず、働く人のコミュニケーション効率が高まり、スッキリ感の多い行動文化が形成されていくことに繋がっていくのです。

部門間連携の秘訣は「思考を見せる」

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

第10回

部門間連携の秘訣は「思考を見せる」

 

「会社のため」「部門のため」「自分のため」

終身雇用という労働慣行が一般的な日本の組織(本社、国内拠点)で働く正社員は結果的に“就社”意識が高くなり、「会社のため」という大義名分をもつことになりますが、実際の日々の仕事の中では、自分が所属する「部門や部署のため」となります。特に何か大きな問題が起きていない平常時においては、新入社員から執行役員までそれぞれの立場において「部門や部署のため」という意識をもっているといっても過言ではないでしょう。

一方で、日本企業の海外拠点では、2種類の意識が存在しています。特に生産拠点では、上層部の役職に就いている人材のほとんどが日本から派遣された出向(駐在)社員です。この層の日本人は日本で働いている時と同じく海外でも、「会社のため」をベースとした「部門のため」という意識で仕事をすることになりがちです。他方、同じ拠点で働く中国人のほとんどは中位層以下の役職に配置され、“就職”意識が高いことから、基本的に自分の役職の役割をベースに「自分のため」というスタンスで物事を判断する傾向が強くなります。

「あなたたちはもう課長なのだから、“会社のため”という意識をもってお互いに連携して自分たちで問題を解決しなさい!」と言ってもなかなか期待とおりに行動してくれない、という不満や愚痴を日本人駐在員からよく聞きます。このセリフは、“就社”している日本人の心にはごく当たり前のこととして届きやすいですが、「自分のため」というスタンスで“就職”し、日常的には上司との関係の中で仕事をしている中国人の心には届きにくいのです。

連携行動を強化する

とは言っても、会社経営を実行していく中で、「経営層」の人材には「全体最適的」なものの見方や考え方、さらに、それをベースとした行動力をしっかりと身につけてもらいたいものです。本人にとっても、現役職よりも高い視点で考えて行動することは、「成長余地」を自ら埋めていくことにもなるので自分にとっても大変メリットがあることなのです。

さて、ここで抑えておくべきポイントは、まず、「経営層」とはどの役職以上を指すのか?ということです。海外拠点の組織規模や組織構造次第ですが、多くの会社では、部長以上あるいは課長以上というのが一般的でしょう。  

次に、広義の「経営層」が課長以上の場合、部長層以上が「部門のため」というスタンスが強く、部門の壁を乗り越えて「全体最適的」な連携行動をとることができなければ、課長は部長層以上の行動を日常的に観察していますので、課長だけにこの行動を求めても、模範行動が足りないため効果は薄いといえるでしょう。また、多くの日系企業では課長のほとんどが「自分のため」を基本スタンスとする中国人ですから、「全体最適的」な行動とはそもそも大きな隔たりがあるため、なおさら部長層以上の行動の変化が鍵となります。

従って、まず部長層以上から「全体最適」の視点で連携行動をとることを習慣化することが最優先です。そして、その流れの中で中国人課長を巻き込んでいくような活動や取り組みが重要になります。部門間連携が求められる仕事には、いま「隙間にこぼれている」仕事もあれば、将来新しいことをやっていくために今から一緒に「組み立てて創っていく」仕事もあります。連携行動を強化する活動を進めていく上で、このような社内の「生の」題材を活用することがとても大切なのです。

経営層は「表現」して「思考を見せる」ことが大切

さて、連携行動を強化していくためには、実際のところ、実務的な面が重要になります。具体的には、どんな目的で、誰が、いつまでに、どんな行動をとり協力し合うのか?を明確にしなければ連携行動は前に進みません。「会社目標を達成するためには部門間の連携は欠かせない。経営層は全体最適の視点をもってお互いに協力し合うことが大切である」という“考え方”自体は、経営層ひとりひとりの頭の中では十分理解できていると思います。しかし、いざという時に無意識のうちに行動にブレーキをかけてしまうのが現実なのです。

その原因は、ズバリ、お互いの「思考が見えない」からなのです。日本人同士の場合であれば、お互いの思考を推測しあえる余地があるかもしれませんが、日本人と中国人の間ではこの余地はとても少ないといえます。私は日々のコンサルティングの仕事の中で、日本人であろうと中国人であろうと経営層である限り、自分の頭の中にあるイメージや伝えたいことを明確に「表現」できる資質を身につけることができるようクライアント企業のマネジャーひとりひとりをサポートしています。経営層の仕事は「表現」することであると言っても過言ではありません。特に日本人は「解釈の幅が狭い表現」をすることに慣れていませんので、この点では、大きなチャレンジとなります。

部門内と部門間では日々のコミュニケーションの量が異なります。日々のコミュニケーション量が少ない部門間での連携行動の効率と効果を高めるためには、明確な「表現」が不可欠です。「思考が見える」状態を作ることが必須なのです。お互いが「自分の頭の中を見せる」行動をとり合えば、相手は速く明確に理解することができます。不明確な表現だと相手は理解に時間がかかるだけでなく一種の不信感(=裏に何かあるのでは?)をもってしまうことにもなるのです。そして、相手は徐々に実務的に面倒くさいと感じ、結局は「今は忙しいからちょっと・・・」という具合に行動にブレーキをかけてしまうのです。

相手を説得できる、相手がイメージアップしやすい、あるいは、相手をその気にさせる「表現」で「思考を見せる」ことが連携行動の鍵といえます。

ホワイトカラーや“川上”の仕事をする人の思考は見えにくい

また、組織の中では、作業現場(ブルーカラー)よりも事務所(ホワイトカラー)の方が通常、働く人の思考が見えにくいです。機能という点では、川下の仕事(下工程)よりも川上の仕事(上工程)の方が通常、働く人の思考が見えにくいのが実態です。つまり、知識集約型の仕事をしている人の方が、思考が見えにくいのです。その結果、お互いが誤解や勝手解釈に陥り、仕事の「手戻り」や「停滞」という時間の無駄を引き起こし、知的生産性を下げてしまっていることが実に多いのです。ホワイトカラーや川上の仕事をする人は「しゃべる」専科になりがちです。しかし、口頭の会話だけでは、お互いに言葉を翻弄して“空中戦”になることが多く、結果的に理解しあえていないことが多いのが実状です。頭の中で考えていることを文字、表、計画、構造図、ポンチ絵などで明確にし、そのうえで、相手に対して表現する習慣を身につけていくことが大切なのです。

次回は、部門間の連携行動を強化する活動を進めていく上での具体的なポイントをお話します。

部門間連携を阻害する意識構造の違い

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

第9回

部門間連携を阻害する意識構造の違い

 

日本本社、国内拠点、海外拠点など、どんな組織でも「部門間連携が良くない」という問題は起きがちです。日本企業よりもはるかに業務の明確化、明文化が定着している欧米企業といえども、会社で“人間”が仕事をしている以上、業務を100%明確にし、部門間の業務の隙間を皆無にすることは不可能です。従って、国籍を問わず、どんな組織でも個人間を含めた部門間の連携行動は必須になります。

「会社業績を向上させるためには各部門が期待されている成果を達成することが必要だが、現実は、部門内で自己完結できる仕事ばかりではないので、部門間の協力が必要になる」ということは通常、誰でも頭の中では容易に理解できるはずです。しかし、実際のところ、行動はなかなか難しいようです。

集団対抗意識の日本

日本の企業社会では、一般的に組織のために個人を犠牲にすることが尊ばれ求められてきた経緯があり、職場においては、個人は自分が所属する「部門」のために行動する意識が高まります。その結果、自然と「集団単位」での対抗意識が高まり、それが部門間の連携行動を阻害することに繋がっていくのです。そして、経営センスの高い部門長、部門の上位役職者、あるいは、優秀な若手人材が、「部門」のためではなく、「会社」のためという全体最適の視点でこのような問題を解決することになります。

2層構造の対抗意識

一方、日本企業の海外拠点では、部門長である日本人駐在員間での対抗意識、その部下である現地人材間での対抗意識、という異なる特性をもつ対抗意識が2層になって、部門間連携の拙さを引き起こしています。

まず、日本人駐在員間では、やはりごく自然と、日本での集団対抗意識が働いてしまうようです。本社サイドでの組織体制が事業部制や機能本部制で、その統制力が強い場合には、事態はさらに深刻です。海外拠点の日本人部門長にとって、最終評価権を持つ上司は自分が所属する海外拠点長ではなく、自分の“出身”である日本の事業部や機能本部に在籍する経営層の人になります。従って、重要案件の企画、実行や、組織をまたぐ問題解決の際には、どうしても日本を向いて仕事をすることになってしまいます。従って、この場合、海外拠点内での部門間連携は本社での事業部間、機能本部間連携とほぼ同じことを意味しますので、海外拠点長の仲裁力や政治力が強くない限り、その難易度は高いといえます。

次に、現地人材間では、対抗意識の特性が日本人間のそれと大きく異なります。終身雇用という労働慣行の下で“就社”傾向が強い日本人と異なり、現地人材は文字通り“就職”していますので、当然のことながら、自分の役職の役割をとても重視します。従って、現場の現地人材間で部門間連携がうまくいかない現象は、部門単位ではなく「個人単位」での対抗意識が原因になるのが実態です。具体的には、「この仕事は私の役割ではありません」とか「この仕事は○○さんの仕事だと思います」という具合です。自分の業務負荷や評価への影響が大きくなりそうであればあるほど、自分の役職の役割をベースとした、まさに1対1の対抗意識が高まることになります。

個人間の問題解決には原則、上司判断が必要

このような類の対抗意識を持つ現地人材に対して、「部門間で“こぼれている”仕事は誰かがやならいといけないでしょ?会社のためだと思って、当事者で話しあって分担を決めてちゃんとやってください!」と、どちらかの部門の日本人上司が現地人材に指示しても、残念ながらこのメッセージは彼らの心には届きません。そもそも彼らには「会社のため」という発想がないからです。

このような場合、不満をぶつけられた(=判断を求められた)日本人上司こそ「会社のため」という全体最適の考え方で、関係する部門の日本人部門長と話しあって、どこの部門でどの業務を分担するのかを決めなければいけません。そして、大事なことは、それぞれの部門の日本人上司が自部門の現地人材に対して、決めたことを説明し、請負うと決めた業務を遂行するよう明確に指示しなければいけません。その理由は、現地人材にとっては自分の上司からの業務命令こそが絶対的なものだからです。また、“こぼれていた”仕事が突発的な性質でない場合は、このような部門間調整を繰り返すことを防ぐためにも、部門長間で話し合って役割記述を正式に修正することが必要になります。

もっとも、相手が“就社”している日本人ならば、「会社のためだろう!」という“殺し文句”や「オペレーションが止まって会社に迷惑かけてもいいのか?」という“脅し文句”(笑)は一定度の効力があり、雇用がある程度保護されている代わりに、気乗りしなくてもお互い助け合って行動する可能性は高いといえます。

合目的なフレキシビリティー

部門間連携を良くするためには部門長の行動が鍵です。部門長が他部門に協力要請もしなければ協力もしないという閉鎖的な行動をとってしまうと、多くの部下は上司の行動に追従してしまいます。結果、部門内の仕事が限定的になり、大きな仕事にチャレンジしたい社員のモチベーションを下げてしまうことにさえ繋がります。部門や会社のビジネスが成長していくためには、既存の「業務の境界線」を崩しては引き直すという繰り返しが必要になることを、上に立つ幹部は再認識する必要があります。

3つのタブー行動

日本企業の国内組織や海外拠点で、日本人が部門間で連携する際にお互いに陥りがちな「タブー行動」を3つ紹介します。心当たりがある人は素直に反省してください。苦笑。

①   立場の力で要請する

役職の“力学”や入社時期による“年次”などで優位に立つ人が一方的に「やれ!モード」で要請することです。たまたまこの行動を受け止めてくれる度量のある相手、あるいは、腹心のような相手であればラッキーですが、きちんとした説明と相手の立場を尊重する行動が足りないと、日本人同士でも感情的に関係がもつれることが十分あります。このような行動が習慣化してしまうと、外国人に対しても無意識のうちに同じ行動をとってしまうことになります。

②   人情的に懇願する

典型的なセリフは「・・・そこをなんとかお願いできないか!?」です。この言葉ほど非論理的な言葉はありません。相手と話しあって袋小路に入ってしまった時に、その状況を打破するために使いがちな言葉です。一度成功するとまた使ってみたくなる麻薬のような言葉ですが、相手次第とはいえ、一般的に1回限りで継続性は低いと言えます。

③   (協力してくれないことを)相手の責任にする

相手にメール、電話、立ち話などで協力を依頼した後、しばらく放置し、結果、協力してくれていない事実を知った時に、「お願いしましたよね!?」と暗に相手の行動を責めてしまう行動です。実際は、依頼した内容、依頼の仕方、さらに、相手の意思確認を怠ったことなど、自分の側に原因があることも十分考えられます。目的達成のために相手の協力が必要であれば、相手に行動してもらうために自分はどのような行動をとるべきなのか?ということを考えて行動することがとても重要です。

 

次回は部門間連携を良くするための具体的な行動についてお話します。

納期に関わる不安 -”品質”-

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

第8回

納期に関わる不安 -”品質”-

 

品質に関わる「不安」

「納期」という言葉は「時間」だけではなく通常、「品質」もセットになっています。現実の多くの場面では、「納期」という言葉のイメージと異なり、「時間」よりも「品質」の方がより重視されています。そして、約束した期限に「期待された」品質を伴って仕事が完了していることが「納期を守る」ということになるのです。従って、依頼される側は仕事の期限という「時間」も気になりますが、通常、期待されている「品質」をより一層意識することになります。しかし、この「品質」について自分の中で明確に理解し捉えることができない場合、「不安」を抱くことになり、その結果、行動速度が減速して納期を守ることができなくなる確率が高まるのです。

このような類の「不安」は国籍を問わず人間なら誰でも持ちえるものです。ただ、「不安」を感じた後の行動という点では、日本人と中国人(をはじめとする外国人)との間には大きな違いがあります。

一般的な日本人は、期待された品質を自分なりに「推測」「解釈」し、過去の経緯や依頼者の思考・行動傾向までも踏まえて、期待に添うことができるように行動する傾向が高いです。なぜなら、日本の企業社会では、言われたことだけではなく、それ以上のことをしてはじめて高く評価されるという考え方が浸透しているからです。人によっては「推測」や「解釈」に苦しみ、悶々とする時間を抱えてしまうこともありますが、日本人同士はそもそも同質性が高いため、「品質」面で大きなズレが起きることは比較的少ないといえます。しかし、同じ日本人同士でも世代や利害が大きく異なるような関係の中では、「不安」が「誤解」を生み、納期を守らない行動に繋がることも十分ありえるのが現実でしょう。

一方で中国人(をはじめとする外国人)は、期待されている「品質」に「不安」を感じた場合は質問して不明な点を明確にすることで自分の「不安」を取り除きます。日本人のように善意で「推測」し「解釈」するような行動はあまりとりません。また、実際のところ、そもそも「不安」を感じず、「はい、わかりました」と返事をして、「期待されたこと」を粛々と行うことも多いです。彼らにとって、「期待されたこと」イコール(=)「言葉で伝えられたこと」になり、同じ類の経験を多く共有している深い間柄でもない限り、言外に含まれていることまで「推測」し「解釈」する行動はとりません。特に、上司、部下の関係であれば、上司の存在は絶対的であり、上司は十分考えた上で適切な指示をしていると部下は理解しますので、通常、伝えられた言葉を「額面通り」受け取ることになります。その結果、「品質」を誤解することに繋がり、「時間」を守っても納期を守ったことにならないケースが多くなるのです。

では、質問された時に、改めて明確に説明することができる、あるいは、「品質」について誤解されないために、日本人はどのような行動をとる必要があるのでしょうか?

3つの原則

①   「内容」と「情報」を多く盛り込む

暗黙の了解、阿吽の呼吸などに代表されるように、日本人は言葉数少なくお互いに理解し合おうとする傾向があります。人の心を気遣うあまり、適切な言葉と表現で内容を正確に伝えるよりも、その場の雰囲気や状況を優先することが多く見受けられます。仕事の現場では「一を聞いて十を知る」人が評価される傾向もあり、短い言葉や抽象度の高い言葉で最低限のメッセージを伝えることが習慣になっている人も少なくありません。

教育、日常習慣をはじめとしたバックグラウンドが異なる海外の人たちに十を知ってもらうためには、深い人間関係や長い協働関係がない限り、十以上、例えば、二十から三十を伝えなければいけないのです。「面倒くさい」と感じてしまう心の障害を乗り越えることが大きな課題といえます。

②   「主語」や行動の「主体」を明確に表現する

終身雇用という雇用慣行のものとで「会社のため」という大義名分が成り立ちやすい日本の企業社会では、個人よりも集団が優先され、ひとつひとつの行動の主体が誰なのかが不明確になりがちです。「会社が決める」「部門として判断する」「我々はこのように考えます」などの表現は、行動の主体が個人ではなく組織や集団になります。仮に、会社=社長、部門=部門長ということであれば、個人名か役職名で表現しなければ、行動すべき人が行動を始めるまでに時間がかかることになり、物事を進めるスピードが遅くなるだけでなく、行動の責任の所在もわかりにくくなるのです。また、自信がなく責任を回避しようとする心理が作用すると、本来、「私は・・・」「貴方は・・・」と話すべきところ、つい「我々は・・・」「貴方たちは・・・」と話をしてしまうものです。そうすると、相手は「誰の」意見や考えなのか、あるいは、「誰に」期待していることなのかがわからなくなるのです。相手に期待することを伝え議論する時には、結果的に相手が行動を起こしてくれなければ意味がありませんので、「主語」や行動の「主体」を明確にすることは大変重要です。

伝える内容の「論理」と「構成」を明確にする

日本人が中国人(をはじめとする外国人)に仕事の指示をしている場面や、質問に答えている場面で、その会話の内容を横で聞いていると、案外、「論理」と「構成」が曖昧なケースが多いことに気づきます。英語はもとより、逐語通訳をつけて日本語で伝えている場面でも同じです。

通訳者(中国では、多くは日本語が堪能な中国人)は日本人が話す日本語をそのまま訳しますので、伝える内容が論理的でなく、話の構成が明確でないと、とても通訳しにくいのです。その結果、相手の中国人は直訳された話の理解に苦しみ、誤解してしまう可能性が高まることになります。一方で、通訳者が気を利かして意訳してしまうと、伝える側の意図に反してしまった場合には、意訳した通訳者は後々日本人から「誤訳した!」と叱られることになります。

逐語通訳者に正確に通訳してもらうためには、伝える内容の「論理」と「構成」を事前に明確にし、自分の頭の中で明確な文章記述をもっておく必要があります。通訳者に話しながら、自分が何を伝えようとしているのかがわからなくなり、いつまでもだらだら話をしてしまうことは避けなければいけません。逐語通訳者を活用する場面では、話を短く切りながら話すことが大切ですので、伝える話全体のどの部分を今自分が説明しているのかという「居場所」を見失わないことが重要になります。そのためにも、期待する内容や伝えたい内容については、相手に話す前にノートで整理し、その中で「論理」と「構成」が明確になっているかどうかをセルフチェックするという地道な準備行動を習慣化させることが鍵になります。この習慣を身につけると、人と対話をするあらゆる場面において、相手に「誤解」を与えることが少なくなります。

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納期に関わる「不安」 -”時間”-

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

第7回

納期に関わる「不安」 -”時間”- 

 

 国籍を問わず、さまざまな関係の中で起き得る

「中国人は、ベトナム人は、タイ人は、インドネシア人は・・・・納期を守らない!」という日本人マネジメントの不満や愚痴をよく聞きます。対象となる国にも限りがありません。ただ、話しが進むにつれて、「そういえば、日本本社でも納期を守らない日本人はいるね・・・」「いや、海外拠点の日本人駐在員の中にもいるいる!」「でも、程度問題かもしれないけど、中国人の方が納期を守らない人が多いと思うけど・・・」という具合です。

国籍を問わず人と人が仕事をしている限り、納期を守らないという現象は起きますし、上司、部下の関係に限らず、部門間、社外の協力会社との間など様々な関係の中で起き得ることです。

納期は「時間」だけでなく、「品質」とセットになっている!

「納期を守る」という言葉には、通常、言外に「(期待している)品質を(きちんと)伴って」ということが条件として含まれています。単に約束した期限を守ればよい、ということではないことがポイントです。約束した期限に提出しても品質が伴っていなければ、「なんだ、これは!?」「指示したことと違うじゃないか!?」という批判を受けることになります。一方で、仕事の品質に気を取られて期限を守ることができないと、「遅い!」「途中段階でもまずは約束した日に現状を報告すべきだ!?」という批判を受けることになってしまいます。

なぜ、納期を守れないのか?

では、なぜ、人は納期を守らない、という行動をとってしまうのでしょうか?国籍を問わず、上司、部下の関係をイメージして、原因の解説を進めますが、上司、部下以外のあらゆる関係においても当てはめることができます。

そもそも、部下が仕事に対するやる気を失っていたり、無断遅刻、突然の音信不通、さぼりなどの不自然な行動を頻繁にとっている場合は、仕事を依頼しても納期を守らない確率が当然高まります。このような場合は、起きている問題をまず先に解決し、平常の状態に早く戻すことが最優先となります。

ここでは、メンタル的に平常の状態であるにもかかわらず、納期を守ることができない原因に焦点を当てることにします。結論からいえば、納期を守ることができない原因は、部下側に「不安がある」からです。人間は誰でも依頼された内容に不安を感じると、立ち止まってしまい、行動を起こすことを躊躇します。そして、時間が経つにつれて自分の中で優先順位が下がり、やがて意識する頻度が少なくなり、ふと気づいた時は、納期の直前だった、あるいは、納期が過ぎていた、という状態に無意識のうちに自分を導いてしまうものなのです。

ビジネスの現場での「不安」には大きく分けて通常、2種類あります。ひとつは、時間に関わる「不安」で、もうひとつは、品質に関わる「不安」です。部下に納期を守らせるためには、上司は部下が抱えがちなこの2つの「不安」を取り除くための行動をとることが重要になるのです。

時間に関わる「不安」

①   負荷

日本と同じく海外でも、“できる”現地社員には社内の競争原理が働き、仕事が集中してしまう傾向があり、結果、時間に関わる不安を抱かせてしまうことが多く見受けられます。海外では役職の役割が基本的に明確なので、一定度を超えて仕事が集中すると、「役割以上の仕事」と受け止められ、想定外の給与交渉、昇進交渉にも発展しかねませんので、仕事の依頼し過ぎには注意が必要です。

日本では、上司と部下、社員と社員の間の役割が曖昧なので、“できる”社員はどうしても慢性的に高負荷状態になってしまう傾向があります。しかし、“できる”社員は、やり遂げるための時間に不安があっても、そこを頑張ってやりきってこそ、“できる”と評価されることを期待して頑張ります。つまり、自分の頑張りで自分の不安を打ち消しているのです。従って、上司は結果的に、“できる”部下に助けられているといえます。

ただ、極度に負荷が偏りキャパを超えてしまうと、「どこまでやらされるのか?」「どこまでやればいいのか?」と精神的に参ってしまうので、上司は部下の負荷状況を適切に把握しておかなければ、予期せぬ悲劇を引き起こしてしまうことになります。

②   納期交渉

“できる”社員も一般的な社員も、仕事が多く忙しい時には、依頼された内容と納期次第では、時間の不安を抱えてしまいます。安請負してしまうと後で叱責を受けることになるので、このような場合は、納期交渉をすることになります。上司も多少の時間のバッファーを見込んで依頼していることが多いので、通常、よほどの緊急案件でない限り、時間に関わる交渉幅は一定度あることが多く、うまく交渉できれば、その時点で時間に関わる不安は払拭されます。

しかし、上司が日常的に話しにくい雰囲気を作っていたり、高圧的である場合は、部下は納期交渉を躊躇し、悶々としてしまい、結果的に、時間に関わる不安を増幅させることになります。上司はこのリスクを視野に入れ、自分の日々の行動も部下が納期を守ることができない原因に大きな影響を与えてしまう可能性があることをきちんと認識する必要があります。

③   仕事の段取り力

部下が抱える時間の不安の根本原因は「仕事の段取り力」が不十分なことでしょう。「仕事の段取り力」とは「ある時間軸の中で(複数の)仕事を組み立てて完遂する力」です。仕事の目的と手段、仕事を遂行するうえで関わる相手、その相手の思考や行動傾向を見極めたうえで、ひとつひとつの作業段取りを考え、適切に優先づけすることができなければ、段取り良く仕事を完遂することは難しいのです。実際のところ、「仕事の段取り力」が十分でないため、仕事を「停滞」させ、あるいは、相手との仕事の授受において「手戻り(=やり直し)」を頻繁に起こしている人は少なくありません。このような人たちは、傍から見るといつも忙しそうに見えるのですが、計画とおりに仕事を完了することができないことが多く、時間に関わる“潜在的な”不安をいつも抱えているのが特徴です。

また、「仕事の段取り力」は、上司が高くて、部下は低い、と言い切ることはできません。組織の中のどの階層においても「仕事の段取り力」に問題を抱えている人はいます。上司も、立場やプライドは横に置いて自分自身の現状を正しく認識し、自他ともに、「仕事の段取り力」を向上させる必要があります。この努力こそが時間に関わる不安を軽減することに繋がるのです。

次回は、2つめの「不安」である、品質に関わる「不安」についてお話します。

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「不正」を防ぐ本質解

世界で活躍する日本人リーダーの現場行動

~思考と行動をアップグレードする~

第6回

「不正」を防ぐ本質解

 

不正はどの国にもある

中国製の毒入り冷凍餃子に関わる報道が冷めて久しいですが、当時このひとつの事例から複数の類似事例の報道に連鎖し、その後、国産食品の保護の観点や圧力も加わったのでしょうか、気がつくと「中国製の食品は危険だ」という世論形成にまで発展したのは記憶に新しいです。本当に中国製の食品が危険であれば、13億の中国人や中国で働く多くの日本人は毎日何を食べればよいのでしょうか?このように考えると、日本の報道機関は少し行き過ぎた客観性に欠ける「過剰報道」をする傾向にあり、また、それを信じる日本人も「盲目的に思考」する傾向があると推察せざるをえません。

他方、海外で働く日本人駐在員と人事組織マネジメントについて話をしている中でも、「中国人やアジアの人は不正をするので困る」という言葉をよく耳にします。言外には、「日本人は(彼らがするような)不正はしない」という考えがあるのです。確かに、不正の種類の違いはあるかもしれません。しかし、日本でも政治家、公務員、民間企業を問わず、氷山の一角として判明している不正の事実だけでもたくさんあります。この点は中国やアジア諸国でも同じですので、「国籍」による違いはないといえます。さらに、成熟度が高い国でも成熟過程の国でも、「全ての人たち」ではなく、組織の中で不正に関わりやすい役職に就き、権限がある「特定の人たち」の中に不正をしている人たちが少なからずいるのです。しかも、このような人たちは証拠が見つからないように知恵を使う“頭のいい”人たちでもあります。

海外の「前提」、日本の「前提」

多くの海外先進諸国では、性悪説のもとで、「人は不正をしてもおかしくない」という「前提」が一般的ですから、ルールやチェック機能が強まります。従って、知恵が足りないと証拠が発見され不正はバレやすくなります。それでも、高度な知恵でルールの網目を抜けて不正を行う人たちはいるものです。

中国やアジアでは、社会的に成熟過程である一方で経済発展が著しく、「所得」に関する欲の高まりから不正が商習慣の一部になっている側面があります。不正に関わりやすい購買部門の役職に就き「できるならば不正をやりたい」と考える人が少なからずいるのが実態でしょう。また、権限を持つ特定の人が、敢えてチェック機能を強めず、不正を行いやすい環境整備をするというケースすらあります。しかし、中国やアジアでも旧態依然とした組織ではなく、先進的な経営に取り組んでいる企業では、他の先進諸国と同じく不正が起きにくいオペレーションが確率されつつあるのも事実なのです。

他方、日本の社会や組織では根本に「性善説」の考え方があるため、そもそも、不正が比較的起きやすい土壌があります。「人はきっと不正はしないだろう」という考え方が「前提」にあるため、オペレーションのプロセス、特にお金に関わる帳票類の流れや、チェック機能が弱くなる傾向があります。結果的に、不正が起きた場合の証拠も発見しにくくなります。「怪しいな?」と感じる事が起きた場合は、特定の人を疑う前に、全員に注意喚起を呼び掛けることで、集団として不正の行動に抑制がかかりやすくなるのは日本での特徴といえます。また残念なことですが、組織の中で権限を持つ特定の人たちがチェック機能の弱さを逆に“活かし”、「不正利益」を共有するネットワークを作り、不正をリードするというケースが容易に起きてしまうのも実情です。

日系企業がとるべき行動

①   チェック機能を「海外仕様」に切り替える

特に海外でオペレーションする日系企業は、不正の発生を最少化するためにマネジメントの方法を工夫して変えなければいけません。日本人が海外に赴任すると、「人はきっと不正はしないだろう」という日本版「前提」を海外に持ち込む人はさすがに少なく、むしろ、「人は不正をしてもおかしくない」という海外版「前提」に頭はすぐに切り替わります。しかし、多くの日系企業ではオペレーション上のチェック機能が依然として「日本仕様」のままになっています。心のどこかで「話せばわかるだろう」と感じ、日本的な「注意と指導」でもって不正を抑制しようとするのですが、そもそもオペレーションプロセスに「脇の甘さ」が残っていれば、抑えは利きにくくなっても仕方ありません。まずは、帳票類の整備を含めチェック機能を「海外仕様」に切り替えることが最も重要な仕事といえます。

②   「期待行動」を明確にする

日本人は物事を明確にせず「隙間を残しておく」ことに美徳や心地よさを感じる傾向があります。その結果、社員に期待する行動も「スピード」「チャレンジ」「チームワーク」などのカタカナや、「協調性」「責任感」「積極性」などの漢字のキーワードでとどめ、無意識のうちに「解釈の幅」を広げてしまっているケースが多く見られます。つまり、それぞれのキーワードが具体的な「場面行動(どのような場面のどのような行動なのか)」にブレークダウンされ明文化されているケースは、実際のところ大変少ないのです。

日本人同士でも同じキーワードについて解釈が異なることがありますので、外国人との解釈の違いははかり知れません。あるキーワードを聞いた時、日本人にとって“常識的”な解釈は必ずしも外国人の解釈と同じとはいえません。従って、まず、日本人マネジメントが社員に期待する行動を「キーワード」と「場面行動」で明文化し開示することが大切なのです。そして、会社が不正を全面禁止するスタンスをとるならば、「誠実」「公正」などの「キーワード」や、「リベートを要求していない」「リベートを受け取っていない」「リベートに関わる行為に加担していない」などの「場面行動」を盛り込み、不正行為を「明示的」に牽性することが求められます。

③   不正に向き合うのではなく、ポジティブな活動を継続的に展開する

証拠が少ない中で、“実行犯”と“共謀者”を捜索することに追われるのは、経営上決して得策ではありません。明確にした「期待行動」について、説明資料、ポスター、携帯用カードなどの補助ツールを作成し、それらを活用して社員に「継続的に」「根気よく」「丁寧に」コミュニケーションしていくことが重要なのです。また、模範となる行動をとった社員を表彰して「認知」し、「期待行動」に基づいた行動多面評価(匿名性を担保)を実施して個人レベルでの「気づき」を醸成し、さらに、「期待行動」の意味を「咀嚼」するための語り合いの場を定期的に設けるようなポジティブな活動を展開していくことが、健全な組織マネジメントを効果的に後押しします。このようなポジティブな活動こそが、「期待行動」に沿った新しい行動文化を創り、結果的に、不正をする人を組織の中から排除していく可能性を高めるのです。

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